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ジンはいる
第一章

[2]次話
                ジンはいる
 この時イスラムの法学者達は真剣に議論していた。
「ジンはいる」
「いや、いない」
「いると言っているのだ」
「見た者はいないぞ」 
 ジンという存在について真剣に話していた、それでだ。
 その話を聞いたハールーン=アル=ラシードもどうかという顔になって宰相のジャアファルに対して言った。
「法学者達の議論だが」
「今ジンがいるとかいないとかで」
「言い合っているな」
「あのことですね」
「随分と白熱しているが」
 その豊かな髭のある立派な顔で言うのだった。
「果たしてどうなのか」
「ジンの存在については」
「余もだ」
 ハールーンにしてもというのだ。
「このことはな」
「前よりですね」
「どうかと思っていたが」
「まさにそれをです」
「法学者達が明らかにするか」
「そうかと」
「そのことはわかった、しかしだ」
 ここでだ、ハールーンは自分の傍らに控える黒人の大男を見た、右手には大きな刀左手には敷きものがある。処刑人のマスルールだ。
「若しもだ」
「法学者達が議論のあまりですね」
「殺し合いにまでなればな」
「その時は」
「処罰せねばならん」
 そうせねばならないと言うのだった。
「罪を犯せばな」
「その時は容赦しない」
「放っておけぬ」
 アッラーの代理人として世を治めるカリフとしてだ。
「そのことはな」
「法学者達にもですね」
「伝えておけ、議論するのはいいが」
 しかしというのだ。
「熱くなり過ぎてだ」
「我を忘れるな」
「そのことは言っておく」
 絶対にと言うのだ、そうしてだった。
 ハールーンはその議論を自由にさせた、それで法学者達はジンがいるかどうかという議論を続けていった。
 その話を聞いてバグダートの市井の者達も話した。
「ジンってよく聞くけれどな」
「いるってな」
「見た人がいるってな」
「よく言われてるな」
「しかしな」
 それでもと言うのだ。
「実際にその目で見た」
「そんな人いないよな」
「不思議とな」
「一人もいないぜ」
「そうした人は」
 こう話すのだった。
「ちょっとな」
「何でかそんな人いないよな」
「実際にその目で見た人は」
「また聞きばかりで」
「どうしてかな」
「そんな人いないな」
「じゃあ本当にいるのか?」
 それはどうかと言うのだった。
「そんな人は」
「そうだよな」
「そこ謎だよな」
「実はいないとか」
「有り得るな、それ」
「実際に見た人がいないんならな」
 それならというのだ。
 結局彼等もジンを実際に見た者はおらずその存在を疑う者がいた、それで法学者達と同じく言い合う様になっていた。
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