第五章
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「全くな、だがな」
「手紙にはそう書いてあったか」
「本当はどうだったか」
「あのアディという男にいた時とは」
「そしてだ」
イヨタカはさらに話した。
「手紙はコディからのものだった」
「バッファロー=ビルだな」
「ガンマンだったな」
「有名な奴だった」
「あの人がか」
「彼は友人だ」
まさにそう呼ぶに相応しい人物だったというのだ。
「その彼が今教えてくれた、私はあの時わからなかった」
「あんたは白人たちに大嘘吐きと言ったな」
「そうだったな」
「しかし相手に言葉は伝わらなかった」
白人達にはというのだ。
「何故か拍手だったがな」
「しかしバッファロービル自身とはか」
「友達でいられたか」
「そうだったんだな」
「気前よく金もくれた」
週給で五十ドルだった。
「そしてここに戻る時に灰色の馬とソンブレロもくれたしイギリスの女王に会うかとも言ってくれた」
「白人もそれぞれだな」
「心のある者もいるんだな」
「そうだった、しかし私はそうだったと書いてあった」
白人達からは理解されず見世ものに過ぎなかったというのだ。
「手紙にはな」
「そうだったのだな」
「やはり俺達はアメリカには入られないな」
「別の土地からいた連中に入ることは出来ないな」
「どうしても」
「そうだ、私は死ぬまで林檎を食べない」
アメリカの象徴であるそれはというのだ。
「キリスト教も信じない、最後までな」
「スー族としてスー族として生きるか」
「そうしていくか」
「そして林檎にもならない」
外見つまり肌は赤いが中身は白い、白人の側についたつまりアメリカに入ったインディアン達にもならないというのだ。
こう言ってイヨタカはそのまま生きて最後は白人側についた保留地のインディアンの警官達に捕まりその騒ぎの中で頭を撃たれて死んだ、しかし最後まで彼は林檎を食べず林檎も食べなかった。当時の寛容な部類のアメリカ人達はその死を聞いて悲しみつつ言った。
「林檎を食べていれば」
「アメリカの中に入りキリスト教に改宗していれば」
「あれだけの戦士が勿体ない」
「どうしてアメリカに入らなかった」
こう言うのだった、彼等は林檎を食べながら思うのだった。イヨタカが終生口にしなかったその食べものを。フロンティアの消滅が宣言された一八九〇年のことだった。
アメリカン=アップル 完
2018・11・16
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