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人理を守れ、エミヤさん!
掌の上だと気づいて士郎くん!
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れば、アルケイデスは英雄ではなく化け物になっていたかもしれないと、心底で思っていた。
 故にヘラクレス(アルケイデス)は、この友人だけは決して裏切らない。忠誠ではなく友情ゆえに。そして誰が貶そうとも、アルケイデスだけはイアソンを擁護する。彼を罵倒する事は、即ちこの身をも謗るに等しい故に。

「――イアソン、今戻った。女神の捕獲の任、確かに果たしたぞ」

 大海原を漂っていた英雄船に帰還し、ケリュネイアの牝鹿の背から飛び降りたアルケイデスは、アルゴー号の船上へと女神を放り出す。
 しかし返って来たのは沈黙である。なんらかの騒がしい労いと皮肉が飛んでくるものと思っていたが、それがない。怪訝そうに眉を顰め、アルケイデスはアルゴー船の船内を検分した。

「……留守にしているのか? あの男が」

 無人である。船を残して誰もいない。アルケイデスは慮外の事態に困惑した。
 あの男は無能ではない。想定外の事態に極めて弱いが、追い詰められれば真価を発揮する類いの英雄である。伝承とは異なり武勇は然程ではないが、容易く屠られる手合いではなかった。
 あのコルキスの王女もいる。敵に遭遇した、という訳ではないだろう。戦っていたのなら、船がそのまま残っている訳がなく、罷り間違って敗北していたなら船は残らない。このアルゴー船はイアソンの宝具故に。

 サーヴァントである。故に霊体化すれば、海の上だろうと移動は出来るが……。

「む、くっ……!」

 猿轡を噛ませ、腕が鬱血するほどにきつく両腕を縛り、脚を折ってある女神が憎悪を込めて呻くのを聞いて、一旦思考を中断する。
 その腹に軽く蹴りを入れて黙らせ、船の中に投げ入れる。無造作な所作だ。脱走の恐れはない、逃げられないように脚を折ってある。
 それでも想定外はあるだろう。念のため、アルケイデスは或るモノを取り出した。それは毒瓶である。矢の鏃に水滴一つ分浸し、更に海水で数十倍に希釈したそれを女神エウリュアレの脚に突き刺した。

「――ッッッ!?!?」

 言語にならぬ絶叫が上がった。神霊が、自らの不死を返上してでも死を希求する猛毒である。
 しかも折れている脚に毒が回り、此度の霊基では二度と立ち上がる事も叶わぬだろう。かなりの少量の毒ゆえに、即座に死ぬ事もない。脆弱とはいえ神格、半月は保つ。
 アルケイデスは直感していた。スキルによるものではなく、戦士や狩人としての直感である。半月もしない内に決着はつくだろう、という。

 そして女神は脆弱ゆえに発狂する。霊体化して逃げるという発想すら湧かない。湧いたところで実現は不可能なほど、この毒は女神を苦しめる。
 愉悦ではなく、そうした方が万全という冷徹な判断があった。アルケイデスは暫しの間イアソンの帰還を待つ。

「――」

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