第百十五話
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第百十五話 死ぬことによって
博士は小田切君と共にコーヒーをマカロンを楽しみながらさらに話した、今度はこんなことを話した。
「ノヴァーリスを知っているか」
「確かドイツの作家ですね」
「うむ、青い花を書いていたが」
「名前は聞いてますけれど」
小田切君は博士にどうかという顔で応えた。
「どんな作品ですか?」
「ワーグナーのタンホイザーからヒントを得た作品でな」
それでというのだ。
「作品もその流れに近い」
「そうだったんですか」
「主人公の名前がタンホイザーの名前じゃ」
「タンホイザーっていうんですか」
「いや、ハインリヒ=フォン=オフターディンゲンという」
博士は日本人にしてみればいささか長い名前を出した。
「タンホイザーの本名じゃ」
「そういえばそうでしたね」
「そうじゃ、タンホイザーの本名はな」
ワーグナーの作品の中でもだ。
「その名前であってな」
「何かワーグナーっていいますと」
小田切君は自分のワーグナーのそのイメージを述べた。
「凄く長い感じがしますが」
「大長編じゃな」
「そうなんですか?やっぱり」
「いや、別にそこまで長くない」
博士は小田切君にこのことは断った。
「確かにワーグナーの作品は長いものが多いがな」
「ニーベルングの指輪なんて上演に十五時間かかりますからね」
四日かけて上演してだ。
「タンホイザーも長いですし」
「三時間はかかるからのう、上演に」
「はい、ですがその青い花は」
「長くない、というよりかな」
「ひょっとして」
「今の話の流れならわかるであろう」
「未完ですか」
小田切君も察して応えた。
「そうなったんですか」
「うむ、恋人がこの世を去ってな」
「気落ちしたんですか」
「どうもそこから結核が悪化したらしい」
「ああ、当時結核になったら死にますからね」
助からない病だとだ、小田切君も知っていた。
「だからですか」
「未完となって終わった、わしは当時読んでおってな」
博士は残念な顔で述べた。
「第二部の完結を楽しみにしておったが」
「それはなかったんですね」
「永遠にな」
博士はこう話した、青い花の未完は博士にとっても非常に残念なことであったのだ。言葉の色にもそのことが出ていた。
第百十五話 完
2018・12・19
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