episode3『怯える魔女と激昂の鬼』
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れるような形をしていない”し、そもそも腕輪を付けた覚えなどない。
「なにを、言って……」
「やだ、来ないでっ!お母さんが、お父さんが……あんなになって、助けてくれたのに……!やっと、逃げ切れたって……思ってたのに……っ!」
「落ち着いてくれ!別に僕は君を狙ってる奴らじゃないっ!!」
「嘘、うそ、うそっ!また、全部焼いちゃうつもりなの?全部台無しにするんの……?みんな、みんな、みんな――!」
「だから……っ!!」
やめてくれ、やめてくれ。
彼女が言わんとしている事は分かる。それはきっと、彼女がその記憶に刻まれた紛れも無い恐怖なのだろう。そしてそれは同時に、シンとは何ら関係のない、言い掛かりに等しい言葉だと、頭では分かっている。
だから気にしなければいい、気にしなければいいだけなのに、それなのに――
「また、みんな殺しちゃうの……っ!?」
――炎の中で、血に塗れ、何もかもを台無しにした一匹の鬼の姿を、突き付けられているようで。
「――黙れよッ!!」
バキンッ!と、シンの足元が砕けるような音を立てた。
ハッと気がついた時にはもう遅い。恐る恐る床を見下ろせば、シンの右足は木製の古びた床板を踏み割って、その破片が辺りに飛び散っている。それだけでなく、シンが指先を触れさせていた程度だったはずの本棚の仕切りも、硬く握り込まれた異形の拳によって潰されてしまっている。
“また”、やってしまった。しかも、考え得る限り最低最悪のタイミングで。
恐る恐る手を離して、ヒナミの方に視線を向ける。そうすれば案の定、待っていたのは分かりきった結末だった。当たり前のこと、この状況下、彼女の境遇で、こんなものを見せられたなら、行き着く先はただ一つ。
「ぅ……ぁ……」
「――っ」
恐怖。
純粋な怯えの感情、恐ろしいものを目の前にした、人間の心。とうの昔に消えて無くなってしまった、かつてはシンにもあったはずの、その感情。これまでずっと忘れていた――いいや、家族たちのおかげで忘れられた気になっていただけの、その気持ち。
こうなってはもうダメだ。鬼であるシンには、もう彼女に対して出来る事は何もない。そこを超えてしまったのなら、もうきっと彼女にとっても、シンにとっても、取り返しのつかない事になる。
「――何事だ、シン!」
「……しす、たー」
バン!と音を立てて書庫に飛び込んできたのは、血相を変え、荒い息を吐くシスターだった。
呆然とそう呼び掛けて、足の力が抜けてしまったのか、ふらりと本棚に背を預ける。そう大きな本棚でもないのであまり体重をかけると倒れてしまうのだが、シンは未だ体もそう大きくない。もたれ掛かるくらいならば、
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