流氷の微睡み
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エデンは、疲れていた。エイジもそうだ。
初めての課外授業でリック先生にBIS伝票を渡され、いきなりそれを使うことになってテロリストと戦い、リック先生が全部解決するかと思ったら同級生が豹変。目まぐるしい事態にもついていけないし、胸にしこりばかりで「生き残った」とか「勝った」とかそういった清々しい感覚はなかった。
エデンはこれ以上歩くのも面倒になり、自分の部屋より数メートルだけ近かったエイジの部屋に彼と一緒に入り、ベッドを借りて寝転がった。もともと共に行動することが多いので、エイジの部屋も自分の部屋のようなものだった。エイジの部屋は物が少なく広いので、実はエデンの服の一部もこちらに置いてあった。
「……ねぇエイジ」
「なに?」
ベッドを占領されたためにソファに座っていたエイジが、こちらを見る。
「幻実症って何だろ。ルーシャ先生が言ってたけど、美音ちゃんの様子がおかしかったのとやっぱ関係あるのかな」
「分からない。幻実症についての知識はあるけど」
「聞かせてくれる?」
エイジは説明する。幻実症とは何かを。
「OI能力者の『歪む世界』による認識と世界のずれは、魔女との契約によって解消される。でも『歪む世界』とは別に、トラウマが発生することがある」
「トラウマ?『歪む世界』での認識の違いが原因で、人間関係が壊れたり?」
「僕には分からないけれど一般的にはそう言われている。『歪む世界』がなくともトラウマは発生するから、本来『歪む世界』とトラウマには直接的な関係はない」
つまり例えばの話で言えば、エイジが寒い世界をみつめていることと、それが原因で言動がおかしいと周囲の心ない行動や対応を受けて心に傷を負うことは、関連性はあっても現象としては別の事ということだ。
「でも、『歪む世界』の苦しさとトラウマが重なると、よりトラウマが強化されてしまう事がある、らしい。苦しみの記憶、幻の痛み……トラウマが蘇ると同時に、まだ契約していなかった頃の精神的な苦しみを同時に思い出し、精神と世界の二重のズレが一時的に精神に異常をきたす……それも術の発動中に。坑道から逆流する過去の幻影、それが幻実症」
「美音ちゃんが……あっ、そうかあの子ってAFS……」
そうだ。美音は確か、エイジと同じくAFSの診断を受けていた。
つまり『歪む世界』が重篤な苦痛を生み出しているのだ。
エイジは「それもあると思う」と同意した。
「そもそも幻実症は極めて稀有な例。通常では考えられない劣悪な環境――嘗て行われていたという魔女や製鉄師への人体実験の
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