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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
流氷の微睡み
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暴走はしなかった。

「最後に、ね。最後に一回だけ……先生を信じてみて、いいかな」
「きっとまた裏切られるよ。いつかまた裏切るよ」
「裏切られたらお生憎。人生いっつもそうだったでしょ?今更スコアの一つくらい、気にする古芥子姉妹じゃないわ」
「………一回だけ、だよ?」

 ああ、まただ。本当は自分が言いたかったことを、美杏が察してこう言ってくれるのだ。素直に割り切ることの出来ないひねくれた妹の為に。でも、そう思うくらいに、リック先生という大人の大きな背中を何度も思い出してしまう。

 明日、本当の事を言って謝ろう。それで先生が許してくれるのなら――もう一度だけ、信じさせてください。



 = =



「お嬢はどうだ、ナンダ?」
「疲れて眠っちまったよ。元々来る予定がないのに無理言って着いてきたからな。疲れたのさ」

 聖観学園から脱出し、警察や軍の追跡を振り切って日本の排他的経済水域の外まで逃げた3人のテロリストは、そこに潜伏させてあった潜水艦の中で体を休めていた。魔鉄光学迷彩を脱いだ男はくたくたのまま部屋の隅に座り込み、ナンダは帰還後すぐに治療を受けたので体が包帯やガーゼだらけになっていた。

「大丈夫なのかよ、それ?」
「お嬢はミイラ女だって泣くかもな。ま、後遺症が残るようなもんじゃねえさ。じっとしてりゃ1週間ありゃ元通りだ」

 魔鉄医療で骨を繋ぎ留め、皮膚を覆い、ひとまず問題ない段階まで戻ったナンダは既にホットドッグを齧ってコーヒーまで飲んでいる。ただし潜水艦内にあった冷凍ドッグとインスタントコーヒーなのでさほど美味しくはなさそうだ。
 魔鉄で直接細胞を補う研究もされているが、そちらの研究はどうも課題が多くてあまり進んでいない。結局のところ、医療知識を持った魔鉄加工技師という高水準の人間にしかできないところがネックになっているようだ。
 
「で、お前は随分追い回されたみてぇだけどなんかあったか?」
「ターゲットの一人に不意を突かれて警備会社に追い回された。厄日だぜ……まぁ、おかげでターゲット一人から頂いたけどよ」

 そう言いながら、男は通信機より大切に抱えていたナイフを取り出し、部屋にあった試薬に先端を漬けて柄のボタンを押し込む。ナイフの先端から一滴にも満たない赤い液体が染み出し、試薬が銀色に染まった。
 スポイトナイフ。特殊な魔鉄素材で出来ており、僅かな毛細血管であっても斬ればその瞬間に血を吸収する事が出来るナイフだ。普通のナイフとしても使えるが、主な用途は液体サンプルの採集である。

「浜丘永海の血液サンプル。なかなかヤンチャなお嬢ちゃんだったが、やっと検査完了だ。あの子はターゲットじゃない。ただの発育がいい魔女だ。パートナーがどうかは分からんがな……そっちは?」
「悪いが
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