流氷の微睡み
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過程で初めて発見されたとされている。そして、その他ではAFS患者での発症例しか確認されていない」
この精神疾患は、魔女と契約を結ぶ前の段階で心に深い傷を負い、その後魔女と契約した人間でなければ発生しない。症状にも多少は個人差があり、彼女とは逆に術を全く使えなくなってしまうこともあるらしい、とエイジは語った。すべては普通は知ることさえない情報だ。
もやもやした。そんな重要なことを言わなかった古芥子姉妹の気持ちは予想は出来るが、もやもやした。そして、それを知らないで今まで過ごしていた自分自身にももやもやした。ふと、自分は更にもやもやするのではないかと思う事を聞く。
「エイジは?エイジの寒がりも、もしかして――」
「疑われたけど、違ったよ。幻実症は、トラウマを想起させるトリガーが必ず存在する。僕にはそれはないし、そもそも僕は常に寒がりだから理屈に合わない。その寒さもエデンがいればへっちゃらだし」
「そう……」
一つだけもやもやが消えた。しかしエデンは他のもやもやした感情をたくさん抱え込み過ぎて、何を考えればいいのか分からなくなってきた。頭を整理しようと思っても、似たような言葉がひたすらぐるぐると脳裏を堂々巡りして何も進まず、やがて疲れたエデンはそのままベッドの上で寝息を立て始めた。
エイジはそんなエデンを起こさないようベッドにきちんと寝かせ、布団をかけようとし、自分の布団のかけ方では暑いかと思って普段は三重にしている布団を二枚どかした。
= =
自己嫌悪の渦。
ベッドの上で目を覚まして感じたのは、ただただそれだけだった。
あの瞬間、あの二人の前で感情が抑制できなくなり、挙句の果てに先生の手を焼いた。言葉通り、高熱で焼いたのだ。抑制剤を打たれて醒めながら沈んでゆく感覚の中で、リック先生の手が赤く爛れているのを見てしまった。
最悪だ。自分の中の醜い自分を晒し、失態ばかり。
大人の事を馬鹿にすることが出来ないほどに幼稚で、そうだと分かっているのに変える事が出来ない自分がどうしようもなく矮小に思えた。
「別に、美音が悪い訳じゃないよ」
美杏の声。美音の手を温かくて柔らかな手が掬うように握った。
親の顔よりたくさん見た、自分のような姉の顔がそこにある。
「美杏……」
「もっとちゃんと美音を導けないで足を引っ張った。もっと早く抑制剤を打てばよかった」
悔いるような声。お姉ちゃんはいつもそうだ、と美音は思う。
両親と呼ばれる『あれら』の所業の時も、施設に放り込まれた時も、そして今も、美杏はいつも自分こそが悪いと率先して罪を被り、割を食ってきた。
場の空気を読めなくて説教されることもあるが、いつだって本当に悪いのは自分だっ
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