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徒然草
170部分:百七十.さしたる事なくて

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百七十.さしたる事なくて

               百七十.さしたる事なくて
 大した用事もなく他の人のところへ行くのはよいことではありません。例え用事があったとしてもそれでも長居はよした方がいいものであります。お邪魔してもすぐに帰るべきであります。そのままずるずると居てしまうことは鬱陶しいですし決していいことではありません。
 人と人が体面すれば自然と会話が多くなってしまいそれだけで疲れてしまいます。落ち着かないまま全てのことを後回しにしてお互いに無駄な時間を過ごしてしまう羽目になってしまいます。内心では早く帰って欲しいなどと思いながらお客さんに接するのもいいことではありません。嫌なら嫌とはっきり言えばそれでいいのであります。何時までも向かい合っていたいという心からの友人が今日はこのまま暫くゆっくりしようと言うのはこの限りではありません。宋の三国時代の頃の阮籍が気に食わない客人を三白眼で睨み自分が気に入っている客人を青い目で見詰めたということもこれまたもっともなことであります。
 特に用事のない人が来て何となく話をして帰るのはとてもいいことであります。手紙でも長いこと御無沙汰しておりました、とだけ書いてあればそれで喜ばしいのです。別に飾りなぞ必要ありません。ただ簡潔にその心を伝えればそれでいいのであります。人付き合いとはそうしたあっさりしたものがいいのであります。


さしたる事なくて   完


                2009・10・31

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