episode2『全てが変わる日』
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「……えー、っと。確か、この辺に」
教会の本堂から少し歩いた離れには、神父様が世界各地から集めた本が納められた書庫が存在する。世界各地、と言うだけあって海外の本――つまりは外国語で書かれた本も大量にある訳で、無論そんなもの未だ英語の基本すらも習ったことのないシンには読めたものではない。
コツコツと石畳の床でブーツの踵を鳴らしながら、並べられた無数の見慣れた言語――まあ要するに日本語の書物が集められた本棚を、その背表紙を確認しながらなぞっていく。
探しているものは、一昔前に大ヒットした、製鉄師の戦いを描いた小説だ。といっても、これをご所望なのはマナであり、別にシンが読む訳ではない。だと言うのに何故彼がここに来ているのかといえば単純な話。本が仕舞ってある場所に手が届くのが、子供の中ではシンのみなのだ。
無論、先程帰ってきたシスターに頼めば簡単に取ってくれるだろうが、彼女がシスターを怖がっている事もある。必然的にその役目はシンに引き継がれる、という訳だ。
「あった。えーっと、確かマナが言ってたのは……いち、に、さん……」
目的のシリーズを見つけて、巻数を数えていく。彼女が欲しがっていたのは結構後の方の巻で、未だあの文字だらけの本を読むのがかなり苦痛なシンからすると、我が妹分ながら大人びているなぁなどと感心する。
恥ずかしながら、自分がアレを読むと途中で頭が痛くなって読むのをやめるまでの流れがはっきりくっきりと見えている。もうちょっと成長して好みが変わってくるその時まで、暫くは遠慮したい。
「……ろく、ひち……あれ?」
全10巻のこのシリーズの内、今回取りに来たのは8巻。なのだが、7巻は今シンがマナから受け取ってここに返しに来た訳だから手元にあるとして、8巻があるはずのスペースがすっぽりと抜けている。
いや、それだけでなく、9、10巻があったであろうスペースにも本がない。誰かが借りていったのだろうか、とも思ったが、シスターはあまりこういう本は好まないし、神父様は留守だ。出先に8、9、10巻だけ持って行っている……なんてことも考えづらい。
となれば本はどこにいったんだろうか、と首を傾げて数秒。
――ぺらり、と紙をめくる音が聞こえてきた。
「……?」
てっきり誰もいないと思っていたので少し驚きつつも、音の出元を確かめる。万一にも不法侵入なんて事があったら怖いし、もし義兄妹達が入り込んでいたなら、こんな机も椅子も無いような所で読むのは少々いただけない。少々身構えつつも、並べられたいくつもの本棚の列を抜ける。
開け放たれた窓から、涼しい風が入り込んでくる。それに煽られたカーテンが一瞬大きく膨れて、し
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