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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
吹雪く水月8
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に気を遣いながらも第一線で戦っていけるのは、それだけ彼女が製鉄師として完成されているからだ。その彼女の本気を、敵の製鉄師は一撃で突き破った。それが、ルーデリアには信じられなかった。
 今も彼女とナンダの方に、足先から全てが消し飛びそうな程の強烈な圧がA.B.を伝播して伝わってくる。

「――国家の重要な機関に不法侵入。ウチの所属製鉄師3名を病院送り。町を破壊。余波で怪我人多数。挙句は俺の生徒に手を出す。しかも事態の発覚を恐れて鉄脈術によるジャミングまで用意……日本皇国の司法に言わせれば『著しい侵害行為』という奴だな」

 ざり、と真正面で立ち止まった男をルーデリアは見る。
 年齢は30代ほどだろうか、激情を感じないその男からは、唯々、圧倒的な「われはわれである」という確固たる意志を感じる。それは製鉄師にとって最も重要な、自分の認識する世界こそがあるべき世界であるという術行使の意識の基本。現実を塗り替える程のイマジネーションだ。

 戦わなくとも判る。これは、化け物だ。
 それでもナンダは嬉しそうだった。

「すげえな。戦ってなくてもアンタを感じるよ……ここまでのパワーを感じる星はアンタで三人目だ」
「降伏しろ。お前に勝ち目はない」
「だろうな。でも、でもよう……ちっとだけ足掻かせてくれやぁッ!!」

 高速詠唱。殴り飛ばされた際に再び地に落ちたビルを再び引力と遠心力で引き揚げ、真正面に叩きつける。その速度、時速1200キロ。これは最高速度のジェット機を更に加速させて相手に叩きつけるような速攻術。しかもビルには魔鉄のフレームが外壁に仕込まれているため半端な迎撃は意味を為さない。この町でこそ使える即席の質量兵器だ。
 子供たちに対しては使わなかった、完全なる殺人技。ナンダ自身が嫌って使わないほどの伏せ札がリックに殺到する。視界全てを覆う、『死』の壁。

 しかし、リックがそれに対して行ったアクションは実に単純だった。

「ふんッッ!!」

 逆袈裟懸けに魔鉄器を一閃。時速1200キロで突然迫ってきたビルに対して、たったそれだけ。

 それだけの声と動きによって生み出された膨大なエネルギーが、ビルを跳ね上げる。殴ってすらいない。逸らしてもいない。完全に速度を殺したうえでその上を行く程の莫大な運動エネルギーをぶつけたのだ。跳ね上げられたビルは突っ込んできた速度より更に速く加速しながら弾き飛ばされ、ものの数秒で空の彼方に消えていった。

 魔鉄による軽量化が施されているとはいえ、それなりの大きさのビルだった。根本から折れたとはいえ5000トンには届くであろう重量だった。それを、詠唱すらなしに一撃だった。まるで漫画のような光景に、シュールさえ感じてしまう。

「……ちったぁ時間稼ぎぐらいになると思ったんだけどな。こ
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