吹雪く水月7
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手で理屈っぽいエイジには、そのリスクがとてつもなく得体の知れないものに思えるのだろう。
だけど、だからどうしたというのか。
敵の猛攻を紙一重で潜り抜けながら、エデンはエイジに優しく語り掛ける。
「エイジは有詠唱、失敗のリスクがあると思いながら放った?」
「ううん。エデンを守るために使えば絶対に成功すると思った。確率の上では違うけど、そう感じた」
「じゃあ一緒だ。私、エイジの為なら『二重詠唱』を絶対成功させる自信があるな」
「………」
「寒さから守ってくれるんでしょ?」
エイジを背後から抱きしめる。こんな時に何をやってるんだと周りには怒られそうだけれども、私にはこれが勝利の最短ルートに思えるから。
エイジに足りない勇気くらいは、エデンが補ってみせる。
「分かった。エデンの事を信じる……美杏さん、美音さん。僕らの前に出ないで!!」
「存分に信じて、一丁ブチかましてやるわよ!!」
逃げるのはもう終わりだ。エデンはエイジと共に堂々と地上に降り立った。
エイジは左手を、エデンは右手を出し、エイジがエデンの手を持ち上げるように指を組ませて握る。
「掘削開始、雪夜に果てを求めるならば――」
「掘削許可、私が貴方の暁となろうッ!!」
どぐん、と。これまでの術発動とは比べ物にならない程に膨大なエネルギーが鉄脈を震わせ、エイジのコートを通じて空間に爆発的に拡大される。
不思議な――今この瞬間ならば全てが上手くいくと確信するような全能感が、安らぎさえ覚えさせる。
何をいつ詠唱すればいいか、判る。
眼前に迫るナンダの猛攻を見てもなお、何ら恐れることはない。
『振鉄――来たれ雹烈』
『我らが真行の為に集い、無形の身を刃と為せ』
二人をすっぽり覆うようにA.B.がゆっくりと縮小する。膨大な空気に圧をかけるように収縮している筈のA.B.から発せられる世界の歪みが、空間をぎちぎちと軋ませる。ナンダの繰り出した風も瓦礫も、そのすべてが防御壁を前にあっけなく弾かれていく。
ナンダの表情がぱぁっと花開き、逆にルーデリアの相貌が驚愕に見開かれる。
「振鉄の二重詠唱!?たかが学生の癖に、もうそこまで通じ合っていると言うの!?」
「思いの丈が最大に籠った一撃!ここでお前たちの想いを見定めさせてもらう!!」
エイジを感じ、エイジの感じる世界をより深く感じる。
閉ざされた雪と氷、全てを静止させる世界――しかし、その静止はきっと、荒ぶる魂をも鎮める可能性を秘めている筈だ。
『追白せし者を拒む棘の剣』
『荒ぶりし者を戒める鎮魂の風と共に――!』
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