暁 〜小説投稿サイト〜
【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
吹雪く水月7
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
手で理屈っぽいエイジには、そのリスクがとてつもなく得体の知れないものに思えるのだろう。
 だけど、だからどうしたというのか。
 敵の猛攻を紙一重で潜り抜けながら、エデンはエイジに優しく語り掛ける。

「エイジは有詠唱、失敗のリスクがあると思いながら放った?」
「ううん。エデンを守るために使えば絶対に成功すると思った。確率の上では違うけど、そう感じた」
「じゃあ一緒だ。私、エイジの為なら『二重詠唱』を絶対成功させる自信があるな」
「………」
「寒さから守ってくれるんでしょ?」

 エイジを背後から抱きしめる。こんな時に何をやってるんだと周りには怒られそうだけれども、私にはこれが勝利の最短ルートに思えるから。
 エイジに足りない勇気くらいは、エデンが補ってみせる。

「分かった。エデンの事を信じる……美杏さん、美音さん。僕らの前に出ないで!!」
「存分に信じて、一丁ブチかましてやるわよ!!」

 逃げるのはもう終わりだ。エデンはエイジと共に堂々と地上に降り立った。
 エイジは左手を、エデンは右手を出し、エイジがエデンの手を持ち上げるように指を組ませて握る。

掘削開始(マイニング)雪夜に果てを求めるならば(ユア・ブラッド・マイン)――」
掘削許可(ローディング)私が貴方の暁となろう(マイ・ブラッド・ユアーズ)ッ!!」

 どぐん、と。これまでの術発動とは比べ物にならない程に膨大なエネルギーが鉄脈を震わせ、エイジのコートを通じて空間に爆発的に拡大される。

 不思議な――今この瞬間ならば全てが上手くいくと確信するような全能感が、安らぎさえ覚えさせる。

 何をいつ詠唱すればいいか、判る。
 眼前に迫るナンダの猛攻を見てもなお、何ら恐れることはない。

振鉄(ウォーモング)――来たれ雹烈』
『我らが真行の為に集い、無形の身を刃と為せ』

 二人をすっぽり覆うようにA.B.がゆっくりと縮小する。膨大な空気に圧をかけるように収縮している筈のA.B.から発せられる世界の歪みが、空間をぎちぎちと軋ませる。ナンダの繰り出した風も瓦礫も、そのすべてが防御壁を前にあっけなく弾かれていく。
 ナンダの表情がぱぁっと花開き、逆にルーデリアの相貌が驚愕に見開かれる。

「振鉄の二重詠唱!?たかが学生の癖に、もうそこまで通じ合っていると言うの!?」
「思いの丈が最大に籠った一撃!ここでお前たちの想いを見定めさせてもらう!!」

 エイジを感じ、エイジの感じる世界をより深く感じる。
 閉ざされた雪と氷、全てを静止させる世界――しかし、その静止はきっと、荒ぶる魂をも鎮める可能性を秘めている筈だ。

『追白せし者を拒む(いばら)の剣』
『荒ぶりし者を戒める鎮魂(たましずめ)の風と共に――!』

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ