吹雪く水月7
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合元首のリュドス四世は、本気を出せば世界を滅ぼせるが、王が統治する世界を滅ぼしては本末転倒なので本気で力を行使できないと言われている。力を持ちすぎたがゆえのジレンマだ。
「物理的な攻撃は捌かれる。あっちの武器になる破片や瓦礫は戦うほど増えていく。かといって離れたら引力で引き寄せられる、或いはその逆も可能かもしれない」
ナンダたちは恐らく、引力で引き寄せることも、逆に『引き寄せられる』ことも出来るとエイジは考えているようだ。それがエデンたちを吹き飛ばした彼女たちの追跡手段だったのだろう。こうなると一体どうやれば相手の攻撃を止められるのかが分からない。
製鉄師の戦いをよく知らない人が言いがちな台詞に、魔女を倒せばいいというものがある。しかし魔女を倒して製鉄師を止めると言うのは「魔女を殺す」という意味であることまで正確に理解している人は多くない。そんな業をエイジに負わせる訳にはいかないし、そもそも相手の魔女らしきルーデリアはナンダの鉄壁の守りで傷一つ、身じろぎの一つさえしていない。
いつの間に日傘など差したのやら、と思い、ふとその日傘に小さな砂汚れがいくつか付着しているのが目に入る。遅れて、あれが防いでいるのは日光と紫外線だけではないのだと思い至る。傘の形をした、魔鉄の防具なのだ。多少の流れ弾は自力で防いでいるのだろう。
エデンはそんなもの一つも持っていない。持とうという意識もなかった。だからエイジに必要以上に守られている。美杏と美音ははじめから手を繋いだまま息の合った動きで行動しているが、双子ならぬエデンにはそれすらも出来なかった。
エイジと繋ぐ手に力が籠る。自分の無力さが、悔しかった。
何の役にも立たず、お飾りのように守られている身が憎かった。
「……あのさ、エイジ!」
美音が声を上げる。
「何?」
「アレ使えないの!?ほら授業で八千夜を動けなくした奴!」
「あれは効果が一瞬。タイミングを合わせられると防がれて終わる」
「〜〜〜!だったら他の有詠唱の術とか!!」
「ごめん、ない」
質問した美音と美杏は失望が隠せない。現状で一番頭の回るエイジがないといった以上、今のエイジが使えるのはあの術――『拒止の風剣』以外の術はないのだろう。もはや逃げ惑う他ないのだろうか。エイジはともかく美杏と美音の術は移動向けではないため、二人は玉の汗を落としている。
右から左から、そして直線でも飛来する攻撃を捌き続けているが、その狙いは次第に正確に、より緻密に先読みをし始めていた。あのナンダという製鉄師、鍛鉄ではあるのだろうが、こちらより遥かに戦い慣れしていた。せめて、『拒止の風剣』を超える力があれば――。
「………」
ある、のではないだろうか。
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