吹雪く水月3
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るで歌でも歌うように紡がれる言葉。しかしそれは、今まで見た誰よりも強かったリック先生と同じ芸当を肩慣らしのように行った敵の力の、更に片鱗。
「これ、まさか有詠唱ッ!?」
「全員動かないで!!」
エイジが叫ぶのと、相手の術が完成するのは、ほぼ同時だった。
『天踊り地謡う祝風ッ!!』
悲鳴を上げる暇すらなく全身に感じる浮遊感。大地から遠く離れてしまった私の体が感じ取れるのは、凍える冷気と温かみという矛盾を孕んだエイジの手が自分の手を掴んで離さない感覚だけだった。
あの敵に勝つ、或いは逃げおおせるという現実改変が全く湧かないまま、異国の風は町を舞い荒らしていく。
= =
「ぜー、はー、くそっ!!なんなんだよくそっ!!」
エイジ達の下から逃げ出した永海は、人通りの少ない町の真ん中で肩で息をしながら悪態を吐いていた。自分が逃げ出した直後に響いた轟音、離れていても聞こえる戦闘音。紛れもなく戦闘痕だ。挙句の果て、視界の隅に製鉄師らしい人が担架で運ばれている光景まで目に移れば、否応なしに自分がおめおめ敵から逃げてきたのだと思い知らされる。
「はっ、はっ……そうだ!センセーに助けをッ!!」
思い至ると同時にスマートフォンを立ち上げるが、立ち上がらない。こんな時に故障か!頭に血が上りそうになりながら町のビルに近づき、側面のボックスを開ける。この町特有の公衆電話だ。ボタン一つで学校内の施設に通話が出来る。受話器を取ってボタンを押すが、うんともすんとも言わなかった。
ここに至って永海は一つの可能性を思い浮かべる。
「通信が遮断されてんのか!?」
周囲を見渡すと町の人々も段々と異変を感じ取っているのか困惑しているが、しかし町内放送が一切流れないのでどう動けばいいか困っている様子だった。と、町のビルに大きな氷塊が激突し、ガラスが砕ける。
「お、おい……これやっぱり非常事態だろ!!」
「急いで避難所に!!非常ボタンは!?」
「駄目よ動かない!!スマホも通じないみたい!!」
「くそっ、何やってんだ学校側は!!」
恐らくエイジの展開した氷だろうが、こんな場所まで飛んでくるということはまだ戦闘は続いているのだろう。到底勝ち目など思いつかないほど強く思える同級生の製鉄師があちらには二人いるのに、侵入者の得体が知れないことで永海の不安は余計に募っていく。
「何か!!何か出来ることっ!!」
『――おい、ギャーギャー騒ぐな』
「あぁ……!?」
その声は、永海の鞄の中から響いていた。聞き覚えのある、自分の理想のビジネスパートナーであって友達でも恋人でもない特別な人。そして確実に自分より判断力が高く、そしてこ
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