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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
滴る氷柱3
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こらの武装製鉄師なら魔鉄器の剣さえあれば撃破できる。
 達人ではない。形容する言葉があるとすれば、それは「超人」だ。
 ではこの超人は、いったい「何」と戦うために鍛えあげたのか――。

「だッ……りゃあッ!!」

 と、天馬が吼えた。ダンッ!!と床を踏み抜かんばかりに踏み込み、まるで背後に推進装置でもついているような爆発的な速度で吶喊する。

 エイジはその動きに見覚えがあった。
 鉄脈術を発動して天馬が皆の背後に回り込んだ時と同じ動きだ。
 術の発動によって常識の埒外の速度を叩き出していたが、あれは術の強化と体技の合わせ技だったのだろう。その証拠に、天馬の移動速度は通常の剣道では決してあり得ない恐ろしい速度だった。

 瞬時に間合いを詰めた天馬はその速度を全く殺さないまま唐竹割を繰り出す。
 もし生身の人間が受ければよくて骨折、頭に受ければ即死の可能性を秘めた一刀。
 それを朧は一切の恐怖なく両手で構えた剣で受け止めようとする。

 当たるか、抜けるか。緊張の一瞬が極限の集中力で引き伸ばされる瞬間。

 結果は――倒れ伏した天馬と、悠々と佇む朧だった。

「……振り下ろしを隠れ蓑に直前で動きを変えての一刀。相変わらず小器用な事をするものよ」
「完全に見切った上で木刀の腹で人をひっくり返しておいて、嫌味か」
「僻むな、これでも褒めておる。しかし未だ動きに無駄が多い。同格にしか通用せんぞ」
「くそっ、んなこと分かって……あっ」
「どうした……」

 悔しそうに寝転がった天馬の視線がエイジに向いた。つられて朧がエイジの方を――。

 ぶわっ、と真正面から貫くような風と剣気が殺到した。

「……氷室、どの?」

 眼前には、脳天を突かんとする木刀の切っ先。
 その奥に、自分で剣を突き付けながら相手の顔をみて一瞬呆けた朧が見えた。
 余りにも速過ぎて、エイジは見えていたのに体の反応が追い付かなかった。
 同級生に剣を突き付けていたことに気づいた朧は、はっとして木刀を下げる。

「も、申し訳ありませぬ。誰もおらぬと思っていた道場にまさか氷室どのが入っていられたとは露知らず、とんだ無礼を」
「へへん、俺の方が早く気付いたぜー」
「……時間も丁度よいので朝稽古はここまでとする」

 一瞬、朧の顔がちょっと悔しそうにぬぐぐ、と歪んだ。彼女は普段はとてもたおやかなのに、天馬の前では年相応の顔を見せる。それだけ二人の関係性が深いのだろう。もしかしたら、コンビとしては天馬の朧への依存よりもその逆の方が強いのかもしれない。

「しかし、立ち入り禁止とは書いていないものの、無言で訓練を覗き見られたのは余り感心できぬ話ですよ、氷室どの。驚いて反射的に切っ先を向けた無礼に言い訳はしませぬが、貴方もあまり
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