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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
皐月の雹4
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 勘違いであってほしいと思いながら、エデンは自らも引き攣っていると自覚できる顔で周囲を見渡す。天馬は食い入るように戦いを見つめ、朧は絶句し、古芥子姉妹は口元を抑えて震え、永海はおおむね私と同じ顔をしていた。エイジは、何が起きているのか分からないとばかりに茫然としている。
 誰も、エデンの言葉を否定してくれなかった。

「アハッアハハハッ!当たらないわ、爪が!今まで訓練を頼んだ殿方には皆届いたのに!紅かったのに!凄いわ先生!でも防いでばかりではわたくしは止まれなくてよ!この高ぶり、勝利か敗北によってしか止められない!!」
「………」

 ギャリン!ガキン!と、明らかに力加減を一切していない衝突音を響かせ、狂喜する八千夜の爪は更に加速してゆく。その様はまさに獣。人の姿を得た獣の、殺戮の為の暴力だった。パートナーのあざねがその光景を瞬きすらせずに見つめているのもまた、異常さを際立たせる。
 怖い――この鉄脈術の訓練を受けて心のどこかでずっと心のどこかで感じていた恐怖に、足が一歩後ろに下がり、手がエイジのコートのすそを反射的に掴んでいた。普段は甘やかすための手が、今は助けを求めているようだ。

 エイジはコートが掴まれると、ぼうっとした顔からいつもの顔に戻り、エデンを抱き寄せて背中からぎゅっと抱きしめた。コートを通じてエイジの体温が伝わり、不思議と安堵を覚える。エイジは時々、私が寒がったりするとこうして抱きしめる。普段は恥ずかしいのだが、今はそうは感じない。

「どうしたの?」
「八千夜ちゃんが……怖くて。リック先生、怪我するんじゃないかなって」
「大丈夫、先生は平気だよ」
「なんで?」
「ルーシャ先生は全然平気な顔してるから。ルーシャ先生は知ってるんだ。リック先生が負けないことを」

 言われて、はっとする。先生のパートナーであるルーシャ先生こそ一番この状況に動揺しそうだというのに、ルーシャ先生は暢気に「おー」とか「わー」とか、気の抜けた声で観戦に興じていた。それだけ、リック先生に絶大な信頼を置いているのだ。

「それに――リック先生、反撃せずに敢えて受け止めることに徹してる。多分そろそろ、決着が着くんじゃないかな」
「そのようだな……ほれ皆の衆、まもなくカーテンコールみたいだぞ」

 ルーシャ先生と同じく観戦していた悟が顎で指す戦いの場。そこで一方的に攻撃を受け続けていたリック先生が、動いた。

 八千夜は恐ろしい柔軟性と速度で先生の周囲を飛び回り、すれ違いざまなどに次々攻撃をしかけており、その速度たるや捉えることすら困難なほどだ。しかし背後からも死角からも、あんなに巨大な鉄塊一つですべて防ぎきるリック先生は、頃合いとばかりに腰を落として攻撃の体制に入る。

「さて、素早い速度による攪乱に対して有効な
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