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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
春の霜3
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を近づけ、周囲を一周し、最後に首筋に唇が触れそうにほど近づき、やっと離れる。

「貴方、お名前は?」
「氷室叡治……です」
「貴方、嫌いな臭いがしないから近づいても宜しくてよ」
「えっ」

 それだけ言い放ち、八代夜の自己紹介は今度こそ終了した。

「理解できない。何が判断基準なのか……」
「女の子にあんなこと言われて、勘違いしてヘンなことしちゃダメ……って、エイジに限ってそりゃないか」
「むしろ僕がヘンな事された気がする」

 女の子に近づいていいなんて言われれば告白じゃないかとドギマギするのが青春だろうが、生憎とそういった感情に疎いエイジはただ戸惑うばかりだった。とにかく、エイジがそうならエデンも体臭を気にせず近づいていいようだ。
 そして、最初に自己紹介を始めたにもかかわらず完全に場を持っていかれた天馬は自分の机で落ち込んでいた。隣の巫女服魔女がそれを見て呆れている。

「俺の、自己紹介……不発だった……」
「発も不発も、自己紹介とは名を紹介できれば成立しように……相変わらず妙な目標意識に拘るな、天馬は」
「頼れる男の第一印象が欲しかったんだよ……」

 天馬はもしかしたら苦労人気質なのかもしれない。二人の会話を聞いていた人は、何とはなしにそう思った。
 ただ、自己紹介が荒れたのはそこまで。その先はスムーズに進んだ。

「姓は天掛(あまがけ)、名は(おぼろ)。見ての通り巫女ですが、剣術には一日の長があります。小柄な体躯に勝手な勘違いを抱かぬように。凪原天馬とは同じ道場に通った仲で、既に契約を済ませてありまする。この男は少々大口叩き故、必要以上に信頼を寄せぬように」

 黒みの強い銀色の長髪を揺らす朧は、凛とした佇まいで一礼した。
 巫女、天掛と言えばエデンも聞いたことがある。日本皇国(にほんこうこく)鎮守(ちんじゅ)六天宮(ろくてんぐう)が一角、天掛天宮を代々引き継ぐ本物の巫女の一族だ。この六天宮は天孫の統治の正統性を保証した『六天尊』の系譜であり、いわば天孫と同じく神代の時代の血を継ぐ存在だ。
 ただ、天宮自体は鎮守などと大仰には言っているが普通に神社の総本山みたいなところだ。特段政治にも関わっていない、いわば存続することに意義のある一族だ。朧も自分で「単なる一巫女でしかないので妙な気遣いは不要ですよ」とたおやかに微笑んだ。魔女でなければ、きっと絵に描いたような立派な大和撫子になっただろう。

 次は黒縁眼鏡の少年と、その隣の黄金色の髪の魔女。

永居(ながい)(さとる)。好きなものは効率と静寂、嫌いなものは非効率と喧騒だ。カラオケだのショッピングだのとは縁遠い人種だから、あんまり誘ってくんなよ」
「オレ、浜丘(はまおか)永海(なみ)!一人称から分かる通り男みてーな女なんで、男扱い
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