夏の雪解け
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
他でもない。国選魔女として採掘を成立させた先輩方のお子さん、暁エデンちゃんと病室の氷室叡治くんのこれからの話です。本来これは当事者双方の保護者を交えてしなければいけない話なんですが――」
「居ないじゃない、もう一人の親は。大した重役出勤ね?自分の子供の一大事に」
「率直に言います。氷室くんの両親が実家に謎の破壊痕を残して失踪しました。警察と我々はこれを事件の線で調査していますが、とんと足取りがつかめていないのが現状です」
「……………失、踪?」
予想外の言葉に母の目が見開かれる。部屋の空気が凍り付いた。
数日前――ちょうど採掘が終了したときと同時刻と思われるが、叡治くんが両親と共に住む家が破壊されているという通報があったそうだ。警察が現場に駆け付けた時には既にそこには誰もおらず、明らかに製鉄師クラスの何者かが交戦したような痕跡だけが残されていた。
「監視カメラと目撃情報で洗ってみたんですが、記憶操作系の鉄脈術が広域に使用されていて情報が抹消されています。何者かに拉致されたとも考えましたが犯行声明も身代金要求もなければ当人たちの電話も繋がらず、仕事や旅行、国外に出た形跡も一切ありません」
淡々と、しかし深刻そうに松谷が状況を説明し、道明寺が横から補足する。
「なお、調査の結果、周辺住民や二人に近しい人物、職場で繋がりのある人物などの記憶の中から氷室くんの両親の情報はごっそり抜け落ちていることが判明しました。朧げに叡治くんを覚えている人はいても、叡治くんの親御さんにまでさかのぼると綺麗さっぱりに。データベース上存在したことは間違いないし、管理局の役人も顔や声は覚えているのですが、捜査は長期化が予想されます」
「あ、ちなみに機密性の高い情報なので分かってるとは思いますが周囲に漏らしちゃダメですよ?……しかし、両親の行方は我々公僕の仕事なので、先輩方の手を煩わせる事はありません。問題は、氷室叡治くんの親権が宙ぶらりんになっている事です」
「氷室家の親族の誰かが継ぐんじゃないの?」
「それが、氷室家の両親はふたりとも天涯孤独の身なんです。最初からというよりは、病死や事故死などでそうなったようですが。つまり氷室叡治くんの親として彼の権利主張を護る筈の人間が、今はいないんです」
「そいつは、余りにも……その、氷室くん本人はどうなのだ?」
想像を絶する状況に父も口を開いたが、返ってきたのは更に恐ろしい事実だった。
「氷室叡治くんも、両親の事は一切忘れているんです。それどころか彼はいつからなのか、過去の記憶も曖昧にしか覚えていないらしく……AFS発症前に何かあったのかもしれませんが、把握している可能性の最も高い両親がいないのでは……」
「彼、記憶が曖昧なせいか両親のことにも自分の今後の事にも関心が薄いというか、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ