凍てついた夏3
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いた、蝋人形のように白く冷たい彼の姿を見て、契約を面倒ごとだと思っていた自分が遠ざかっていくのを感じた。根拠なんか、理由なんか明確なものは何もない。ただ、震える少年を見て、作業のように淡々と契約手順を進める係員を見て、彼をここにこれ以上置いてはいけないという確信めいた何かを心に覚えた。
足が凍り付いて動かなくなる。関係ない。引き摺る。
手先の感覚が完全になくなった。不便だが無理やり使う。
記憶があいまいになってきた。ちょっとまずいから急ごう。
『もう……探してないの、ここだけ……!』
散々彷徨い、探し、やがてたどり着くは城と繋がる小さな部屋。すでに動かない指を使うことを諦めて、口で強引に扉のノブを引っ張ると扉が雪と氷に覆われてなかなか開いてくれない。むかついて、意地でも開けてやると歯が折れそうなぐらい食いしばって無理やりこじあけた。
もうその頃には体が碌に動かなかった。
しかし、動かさなくてもいい。
部屋の中に、目当ての人物がいたからだ。
目がかすんで見えないけれど、真っ白な存在にしか見えないけれど、不思議とそれがちゃんとした存在であるという確信がある。凍り付いた頬を無理やり緩ませて笑顔を作り、動きもしない手を伸ばし、その人に近づいて告げる。
『――――――』
何を言ったのか、凍り付いた耳ではもう自分の声すら聞こえもしないけれど。
もう、きっと大丈夫。
= =
「暁夫婦がカンカンだよ。子煩悩なの知ってたから絶対に文句言われると思ったけどさ」
くたびれた様子の男がスーツのネクタイを緩めてどさりとソファに座ると、その横で子供用スーツを着た銀髪の少女がテレビを眺めながら答える。
「あんなことになるとか思わないからちょっと迂闊だったよね。前例ないもん」
少女が見つめる先では、都内の大きな病院の一室から特大の氷柱が突き出ているという、凄まじい光景が大声で取りざたされている。余りにも外見のインパクトが強すぎて報道管制も間に合わず、日本政府の失態が散々ぱら地上波で垂れ流されていた。
やれ、反鉄脈派のさえずりが暫く大きくなりそうだ、と男はぼやく。彼の記憶する限り、ただの採掘でここまで大規模な現象が起きた記録はない。採掘のルールが色々と見直されることになりそうだ。
「確かに採掘後には鉄脈術が勝手に発動するけどさぁ。部屋一つ吹き飛ばすレベルとはね。病院だし、下の病室にも上の病室にも空きのある部屋で本当によかったよ。OW深度3でいきなり契約するとあの規模が出てくるのか……死人出なかったのが奇跡だぞ」
「係官は危うく凍傷で死にかけちゃったけどねー。発動させた当人たちは流石に平気だったみたいだけど、それでも救出が到着するまで氷の中で閉じ込められて
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