凍てついた夏3
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」
「始めるかどうかはこちらが決めるのですが……まぁいいでしょう。氷室くん、詠唱を」
「……掘削開始――ユア・ブラッド・マイン」
感情らしい感情の籠らない、震えた冷たい声だった。
もう誰でもいいからこの苦しみから解き放ってくれ、と告げている気がした。
「掘削許可!私が貴方の暁となるッ!!」
瞬間、エデンの意識が物質界から弾き出され、雪崩のように冷たく膨大なイメージが流れ込んできた。
『――これが』
凍える雪原にぽつりと、しかし悠然と、白亜の城が佇んでいる。
雄大で立派なのに、なぜか寂しい。そんな印象を受ける、現実味のない城だった。
強烈な吹雪に見舞われて体温を奪われていることを自覚しつつ、とても開きそうにはない城門を押す。
意外なほどに呆気なく、門はバキバキと張り付いた氷を剥ぎ取られながら開いた。
『こんなに広くて立派なのに――まるで、何もないみたい』
白く染まった庭園。風は止んだが、そこは停止していた。生命の息吹も温度も感じず、ただ白く凍り付いただけの空間。噴水、整えられた木、花壇、石造、創意を凝らした筈の全てがどこまでも無機質に感じる。本来なら石畳と緑の芝生に覆われているであろう足場にひたすら均一に敷き詰められた雪が、余計に虚しい空間だと思わせた。
雪を踏むもどかしい感触と共に、そこを通り過ぎて城の入口へと向かった。
城には灯りがともっていた。しかし、不思議と温かさや熱を感じさせない、青ざめた光だった。寒さを避けて中に入った筈なのに、余計に寒い気がした。
霜が降ったように白い廊下を歩く、歩く、歩く。人影を見つけてかけよると、それは人の形をした氷像だった。城のあらゆる廊下を走り、あらゆる部屋を開ける。そのどこにも暖炉の温かさはなく、氷像と青ざめた光だけが嫌になるほど明瞭に静止した世界を照らす。
窓の外には、太陽とも月とも知れない真っ青な天体がこちらを見下ろしている。それを見つめるだけで、心の底が凍り付きそうな錯覚を覚える。手がかじかみ、瞼が重くなり、震えが止まらない体を引きずり、それでも前へ進む。
何故進むのか。何故立ち止まらないのか。何故引き返さないのか。
理由はシンプルだった。ここに助けたい誰かがいて、それに見て見ぬふりをすることが出来なかった。
大広間。謁見の間。地下牢。探せど探せど氷像ばかりが立ち並び、体は凍えていく。これが彼の世界、彼の地獄、或いは彼の現実――なんと冷たく、孤独で、救われない。契約がこんなにも長い旅路だったなんて聞いていない、と思ったが、立ち止まるという選択肢が出てこない。
あのとき、部屋の椅子に座らされて凍えながら「寒い」と呟
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