凍てついた夏
[2/4]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
寒い。凍える。朦朧とした意識の中で、うわごとのように呟いていた。
最初、症状を聞かされた時に疑ったのは風邪、自律神経失調症、そして低体温症だった。夏に寒気を感じるものの代表格といえる。しかし少年の体温は寒気ではなく本当に低く、いくら病院内の空調が効いてるとはいえ異常な冷たさだった。これは神経ではなく物理的な寒さだった。
体温、32℃。それは人間としては、死んでいることに限りなく近かった。生きていることが奇跡だと思いながら、その時は低体温症だと思った。
夏の低体温症は起きうる事例だ。持病で併発したり、レジャーで長時間水に漬かり過ぎて低体温症になるケースは珍しくない。しかし両親の話を聞いても、応急処置を施しても、少年の体温は上がらなかった。出来る手を施しながら点滴を打ち様々な検査を行うも結果は芳しくなく、命の危機を覚悟した。人間は直腸温度が35℃を下回ると臓器の機能不全を含む様々な不調が体内で発生し、死に至る。
しかし、少年の臓器は正常に動き続けていた。
体温の低さ以外は至って健康。
まるで催眠術でここが寒いと思い込んでいるかのようだった。
常識的医学的見地からしてあり得ない症例。そこに思い至り、私はやっと一つの可能性が頭をよぎる。
「解離性鉄識症候群――アストラル・フォーカス・シンドロームか……?」
アストラル・フォーカス・シンドローム。それは製鉄師の適性を持つ者だけがそう呼ばれる可能性を持つ。
製鉄師の素養、すなわちOI体質という特殊な観測能力は、その存在が確立される以前は「精神異常者」との区別がつかず、現代では「選ばれし者」という真逆の扱いも受ける特異な世界認識を持つ存在だ。
OI体質自体はそこまで珍しいものではない。原因不明、現在進行形で増え続けて今や10人いれば2,3人は含まれるこの体質は、認識する現実を一つ上へ押し上げていると言われている。ただしその2,3人の持つ体質的優位性は誤差の範囲と呼ばれる些細なものであり、『世界が歪むほどの認識の違い』が現れるのはその中でも一握りだ。
OI体質とはとどのつまり、人間の生きる物質界と隣り合う霊的な世界――霊質界世界を観測することで現実の認識が変貌して見えるということだ。製鉄師云々を抜きに語ると、この変貌度が増加するほどに日常生活に支障が出てくる。
彼は、その認識の齟齬が恐ろしく大きくなってしまっているのだ。ここまで極端なものは滅多にお目にかからない症例だが、事実としてOI体質にはこのような状態になる可能性があることがデータの上で明らかになっている。それが解離性鉄識症候群――アストラル・フォーカス・シンドロームだ。通常OI能力は精神にのみ変調を来していくことが多いが、AFSは精
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ