暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 16
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きな建物の黒い影と、その周辺に整列してる五台の馬車を見付けた。
 馬は建物の隣に在る厩舎へ移した後らしい。輓具で繋がれてるなら多少なり足音やら鼻息なんかが聞こえてくる距離なのに、随分静かだ。
 「って、ちょっと待て。まさか、見張りすら置いてないのか? 嘘だろ?」
 おいおい、何の冗談だ?
 幾ら人間から爪弾きにされてる子供の溜まり場だと言っても、中央教会のお偉いさんが来てる時にまでそんなガバガバな警備で良いのか。何の為に大仰な馬車列を組んで来たんだよ。
 見栄……とかじゃないだろうな?
 「ありえねぇ。どんだけ平和ボケしてんだ、あの次期大司教ってヤツ」
 中央教会の敷地を出て直ぐの所で見た、孤児院へ出立する直前の馬車列と、それを取り囲む能天気な人集(ひとだか)り。
 中心に立つ全身真っ白な人影達が何者なのかは、発情期の猿みたいにきゃーきゃー叫んでた周りの都民が勝手に教えてくれてた訳だが……
 「危機感って物がまるで足りてないな。ま、こっちとしちゃ遣り易くて丁度良いけど」
 見張りが居ないってことは、どうぞご自由にお入りください、何をされても文句は言いませんって意味だろ? 喜んで入ってやろうじゃないか。
 そんで、全員殺してやる。

 (可哀想な孤児達。実在しない女神なんかを崇めてる連中に拾われ洗脳され、起こりもしない奇跡に救いを求めながら、嘘吐きな屑共の目の前で為す術も無く無惨に殺されていくんだ。そう)

 母さんと同じように。

 (……できれば連中が着く前に一人だけでも押さえておきたかったんだが……仕方ない)
 護衛なんて何人付けようが人質を一人取っておけば無力化できる。なんせ、相手には世間体があるからな。
 強引にオレを捕まえようとして人質に何かがあった場合や、手詰まりな状況を理由に人質ごとオレを斬り捨てた場合、その事実が国や信仰の上下内外に広まれば、長年掲げてきた慈善事業の看板がズタボロだ。オレはそれでも一向に構わないが、連中はそうも言っていられない。
 金蔓(かねづる)の信用度に、余計な垢は塗り付けたくないもんな?

 「…………」
 物音を立てないように敷地内へ忍び込み、建物周辺の気配を慎重に窺う。
 建物の正面、横、裏、周囲にポツポツ植わってる木やら花やらの陰まで念入りに観察してみたが、やはり屋外には厩舎にさえ誰も居ない。
 「……緊張感が欠けた莫迦ばっかりだな。楽な仕事で羨ましい限りだ」

 次に窺うのは、建物内部の気配。
 全員正面左側に集まってるのか、窓から漏れ出る物音と明かりの量が極端に片寄っていた。
 と、すれば。
 (右側の何処かから侵入するのが得策か)
 オレの手持ちは包丁が一本。わざわざ大勢が集まってる中に突っ込んで行って不利な状況を作っても意味が無い。

 獲物
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