144部分:百四十四.栂尾の上人
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百四十四.栂尾の上人
百四十四.栂尾の上人
栂尾の明恵上人が外を散歩していますとふと近くを通り掛かった小川で男が脚、脚と言って馬の脚を洗おうとしていました。上人はそれを見て立ち止まって有り難い、現世に降臨された御仏でしょうか。あじ、あじと宇宙を創造する言葉を唱えておられます。どの様な方のお馬様かとお尋ねします。これはこのうえなく神聖なことでございますと言いました。男はそれを受けて上人に対してふしょう殿の馬でございますと答えました。上人はそれを聞いてさらに喜び何と嬉しいことだろうか、阿字本不生、即ち宇宙は永遠に不滅である、未来への悟りが見えてきましたと言ってそのうえで感激で瞳から流れるその涙を拭ったということです。
これは非常に面白い話であります。ただ馬を見てそれで感動したという話でも上人が何もわかっていない馬鹿であるという話でもありません。そこにあるものは非常に深いものがあります。上人は実際のところはこの馬のことがわかっていたのでしょう。そしてそのうえで深く感激したのではないでしょうか。一見すると他愛も無い阿呆みたいな話でありますが実際にはそうではありません。深いものが確かにあります。あじという宇宙を創造する深い言葉もまた巷でよく聞くことができるのであります。そしてそこから悟りを見出すこともできるのです。ただ道を歩いているだけには留まらない、世界というものは非常に不思議な巡り合わせをその中に抱いています。そうしてその中で人は悟りを得ることができます。それだからこそ面白いのであります。この話を聞いてそうしたことまで深く考えた次第であります。
栂尾の上人 完
2009・10・5
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