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徒然草
137部分:百三十七.花は盛りに
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ていますと見覚えのある人も見えます。そしてみらびやかな葉をまとった車が来るのを見れば我を忘れます。日が落ちる頃には並んでいた車も人だかりも何処に消えるのでしょう。人が少なくなり車も消えますと後片付けがされて寂しくなります。永遠なぞ何一つとしてない世の中と重なって見えて切なくなります。行列よりも終日大通りの移り変わりを見ることこそが本懐です。
 席の前を往来している人に知っている人が多かったので世間の人も多くはないと思いました。この人達がいなくなり私がいなくなるのも遠いことではないでしょう。袋に水を入れて針で小さな穴を刺したら水滴は少しずつ落ちまして最後は空になります。同じく誰かが死なない日もありません。火葬場に棺が多く担ぎ込まれる日がありますが棺を成仏させない日もありません。ですからこの詩ごとの人は常に忙しいのです。忘れた頃にやって来るのが死です。今日まで生きてこられたことも奇跡でしかありません。こんな日が何時までも続けばと思っていればいいのではりません。盤の上に駒を並べている時は返される駒がどれかわかりませんがまず最初のものを返してそれから逃れても次で返されます。そうしちるうちに結局全て返されてしまいます。これは死が逃れられるものではないことと非常に似ています。武士が戦に赴けば死が近いと思い他のことを忘れます。ですが世捨て人が小屋の中で体裁よく石を置いて水を流して庭いじりをして死のことを考えないのは間違っています。何処にいても死が来ないことがあるでしょうか。常に死と向かい合っているのは武士と同じです。


花は盛りに   完


                   2009・9・28

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