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戦国異伝供書
第三十話 九州攻めに向けてその五

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「論語をやったが」
「論語、儒学ですな」
「その書じゃが」
「羽柴殿に漢籍は」
「読めぬと言っておる」
「左様ですな」
「その前は太平記もやったが」
「そちらもですな」
「どうもじゃ」
 本朝の書、そちらもというのだ。
「あまり読めぬとのことじゃ」
「そうですか」
「それでも子に読ませるとな」
「やがてお子が出来れば」
「そう言っておったわ」
「羽柴家の宝にされて」
「そうすると言っておった」
 自分は読めないので困った顔になっていたがというのだ。
「その様にな」
「それはよいことですな」
「それでよしとした、まあ猿に子が出来ればな」
「よいですな」
「おなごは好きじゃが」
 羽柴の女好きは織田家でも随一と言われている、側室も何人かいる。
 しかしだ、それでもなのだ。
「それでもな」
「中々ですな」
「子は出来ぬな」
「左様ですな」
「子は欲しくても出来ぬ時もあるが」
「羽柴殿こそですな」
「それじゃな」
 まさにというのだ。
「あの者はな」
「そのことは」
「これが中々じゃ」
 欲しいと思ってもというのだ。
「出来ぬものじゃ」
「難しいもので」
「あ奴は養子も考えておるわ」
 既に諦めかけてもいるというのだ。
「しかしな」
「若しもですな」
「出来ればな」
「そう思われて」
「わしがやった書をじゃ」
「家宝にされていますか」
「その書を読ませる為にな」
 自分は読むのに難儀してもというのだ。
「そうしておるわ」
「それはよいことですな」
「全くじゃ、ではな」
「羽柴殿にはこれからも」
「茶器も褒美としてやるが」
 それだけでなく、というのだ。
「書もじゃ」
「お渡ししますか」
「褒美としてな、権六にしてもな」
 武骨者と思われている彼にしてもというのだ。
「書を読む」
「そして茶も嗜まれますな」
「あれでな、しかも実はな」
 柴田はというと。
「気遣いが出来てな」
「繊細な方ですな」
「そうなのじゃ、若い頃からな」
 信長が幼い頃から観ている彼はというのだ。
「武骨で不器用な様でな」
「繊細で気遣いのある」
「そうした者じゃ、器も大きくてな」
「だからこそですな」
「わしもあ奴は重く用いておる」
 そうしているというのだ。
「戦だけでなく政でもな」
「そうされていますな」
「何でもな、あ奴は決してじゃ」
「武だけの方ではない」
「そうなのじゃ、面白い奴じゃ」
 柴田をこうも評した。
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