第三特異点『四海終局決戦アルケイデス』
アバンタイトルだね士郎くん!
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「■■■■■■ッッッ!!」
怪物が猛る。人中に振るえる者などない長柄のバルディッシュ双振りを、恐るべき怪力を以てしてそれぞれ左右の腕で振るう。正に猛威、称して竜巻。局地的な嵐を起こし牛の頭蓋で象られた仮面の巨漢が災害を撒き散らす。
当たれば即死。当たらずとも余波のみで瀕死は免れまい。怪物の発する迫力は、稀代の英傑をしてその心胆を寒からしめるだろう。
――だがあろう事か、その直撃を幾度も敢えて受け、それで尚も全くの無傷である敵手は何者なのか。
さながら幼子の駄々を受け止めるが如く。
あたかも猛牛の突進をいなす闘牛士の如け。
人理を阻む神獣の嚢を加工し、垂れ幕のように頭部を覆って素顔を隠した偉丈夫は、全身を赤黒い染料で染め上げている。
その神獣の嚢が、怪物の双斧を完全に弾いていた。人の手によって生み出された双斧故に、神獣の嚢を前にすれば無力だったのだ。
怪物の膂力そのものは徹るはずだったが、それは真紅の偉丈夫の卓越した体捌きで威力を逃がされている。
その有り様は、牛の怪物の興奮を煽っているかのよう。
しかしその実、偉丈夫には別段怪物を嘲る意図はなかった。せめてもの情けとでも言うのか、或いは神ならぬ身だからこそ――同じ神の被害者だからこそ同情に近しい蔑みを以て、怪物に貶められた反英雄の猛りを受けていたのかもしれない。
だがそれも此処までだ。充分に付き合っただろう。男は神獣の嚢が外れないように固定した、頭部へ巻き付けた鎖を鳴らしながら口を開く。
「――気は済んだか、ミノタウロス」
「えうりゅあれを、かぁえぇせぇぇええ!!」
気など済むものか。こんなもので止まれるものか。激甚なる憤怒に身を焦がす迷宮の怪物は、怪物として侵入者と相対しているのではない。身を護るために戦っているのでもない。
それは、ひとえに護るため。己ではなく、己を人の名前で呼んでくれた、大切な女神を取り返し、護り抜くためにその全霊を尽くしている。
偉丈夫の片手にあるのは、反転した聖大剣アルミアドワーズ。魔大剣とでも言うべきか、黄金に煌めいていたはずの栄光の大剣は黒く染まり、悍ましく禍々しい魔力を迸らせている。
そして。もう一方の手には。――小柄な少女の姿をした、非力な女神の細頸が握られていた。
「ぎっ、ぅ、く……」
宙吊りにされているが生きてはいる。しかし呪詛に等しい極大の憎悪が分厚い掌から感じられ、首を掴まれておらずとも呼吸を困難にさせる圧迫感があった。
そこに華奢な身を案じる慈悲はない。ただ死なねばいいという無造作な残酷さがある。偉丈夫の名乗った真名を雷光の名を持つ反英雄は叫んだ。
「あるけいです――
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