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彼願白書
at sweet day
イフ、ガールズオブズデイ、ブラウンシュガー
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に渡してあるから、ちゃんと分けてもらいなさい。」

そう言って執務室に向かっていく叢雲は、いつもみたいな落ち着いた表情ではなく、何か意を決したような真剣な顔だった。
今年のバレンタインデーには、思うところがあるらしい。




「入るわよ。」

浜風が出ていってからしばらくして、扉の向こうからしたのは聞き慣れた叢雲の声。
壬生森が返事をする前に入ってきたのは、叢雲ではなかった。

「久しぶり、かしら?」

「はぁ……その格好はズルいな。」

「どう?懐かしいでしょ?」

そこには、叢雲が叢雲になる前の、最後の思い出がそこにいた。




「はい、バレンタインデーのチョコ。言っておくけど、本命よ?」

「本当に君は変わらないね。髪を染めただけで二十年以上もタイムスリップするなんて。」

叢雲が渡してきた紙袋を受け取りながら、壬生森は叢雲の頭を撫でる。

「私が叢雲になったから手が出せない、って言うなら、私が叢雲じゃない時を作るしかないでしょ?どう?鎌倉のお嬢さんの頃の私だったら、手が出るんじゃない?千代田のお兄ちゃん。」

叢雲のややわざとらしい童女染みた表情に、壬生森は苦笑する。

「あの頃の君を見て、僕をアンタ呼ばわりしてくる気の強い女だとは思わなかったな。」

「鎌倉のお嬢さんじゃ出来ないことがたくさんあるだけ。叢雲でいるほうが普段は都合がいいのよ。ただ、ね。」

叢雲は壬生森の胸元にぽすりと身を預けたあと、背中に手を回してそっと抱き締める。

「鎌倉のお嬢さんだった私と、千代田のお兄ちゃんだったアンタのままだったら、こんな遠回りを続けなくてもよかったのかなぁ、って思うのよ。」

「時代が10年違えば、そんな未来もあったかもしれないな。」

叢雲の頭を撫でながら抱き寄せる壬生森の言葉。
残酷だ。
叢雲は泣きそうになった目を瞑る。
彼は遠ざけたくて、叢雲を遠回りさせているのではない。
彼は叢雲を大事にしているし、叢雲を愛しているのだ。
ただ、それを実際に行動に移すにはあまりにも障害が多すぎる。
故に、進展はない。進展させるわけにはいかない。
そこまで全てを、たった一言に込めたのだ。
こんなに、苦しいことがあるか。

「ねぇ、私が『鎌倉のお嬢さん』の内だけでいいから、その間だけでも『千代田のお兄ちゃん』でいてくれる?」

叢雲は自分の声が、思っている以上に震えていることに気付いた。
こんなに、甘えていていいのだろうかと思うほどに。
こうでもしないと、いつものようにあしらわれそうだからと、ずいぶん強引な手を選んだと思う。
昔の色に髪を染めて、度の入ってない眼鏡を作り直して、最後に人として会った最後の時の格好に似せて。

「今はまだ、早いよ。
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