生きているのか死んでいるのか
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
なら――答えは一つ。イリヤだ。イリヤが慎二を唯一、殺せる可能性が高い。何せ事ある毎に俺に絡んで来ていたのだから。あの時も、俺の近くまで来ていた可能性は最も高い。
イリヤが慎二を殺したのか? だが――イリヤは薄らと、何かへと違和感を感じていたように思う。確実じゃないが、聖杯による記憶の改竄に、聖杯の器であるイリヤがなんの異変も察知しないままでいるとも思えない。現に何年か前の遠坂は言っていただろう、イリヤが記憶の改竄について思い当たっていた事を。数年越しとはいえ、そこに気づけたイリヤだ、もしかすると慎二を見逃したりするかもしれない。それこそ再起不能になる程度に収めるとか、聖杯戦争中にでしゃばってこないように記憶を奪ったりとか。
「……」
希望的観測だ。あの頃のイリヤに慈悲は期待出来ない上に、聖杯戦争の常識とばかりに負けた奴は死ねと言いそうだ。それでもイリヤが見逃すとすれば、やはりそれは気紛れか、或いは誰かの思惑に乗っていると気づいた場合の――そう、意趣返しだ。イリヤは負けず嫌いだから……可能性は非常に低いながらも、なくはない……と、思う。
第五次、第六次聖杯戦争は俺が高校二年生の冬の時期に起こった。それから一年もの間、慎二の姿を見ていない時点で、イリヤの気紛れがなく、俺が記憶障害ではなかったなら、慎二は死んでいる事になる。
なんにせよ事実は今は分からない。冬木に帰れば、聞けばいい。イリヤに――慎二はどうした、とでも。桜にはとても訊けないが……これは逃げだろうか。
「……女々しい、情けない」
なのに希望があると感じている俺は滑稽だ。度しがたい。だが――そんな希望を持っても、バチは当たらないはずだろう。
「ん?」
なんであれ、事実確認は戦いが終わるまでは不可能だ。これ以上は不毛である。死んでいると決めつけて、これからの戦闘へのモチベーションを下げるより、生きているかもしれないと希望を抱いて戦う方が余程健全で前向きだ。
今は、今だけはそう割り切っておく。俺は意識を切り替え、今日の仕事に入ろうと管制室に向かう――と。
食堂から出て来たらしいイリヤと美遊を見掛けた。
「おはよう」
出来るだけ柔らかな笑みでそう言うと、イリヤは顔を強張らせた。
そして不自然にあたふたして、深々と頭を下げてくる。
「おっ、おはよう! それじゃわたし、行くね……!?」
「あ、イリヤ? ……おはようございます、士郎さん。失礼します」
イリヤは――《《怯えた素振り》》でそそくさと離れていき。美遊も会釈をすると、複雑そうに俺を見てイリヤを追って行った。
「んんぅ?」
もしかして、俺……怖がられてるのか?
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ