士郎くんの戦訓 4/5
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会のやり口は古来、珍しいものでもなんでもない。ありふれた犠牲であり陳腐な悲劇だなんて――そんな事は知っていた。だが「知っていただけ」だと士郎は痛感し、苦々しげに吐き捨てる。
『俺は俺の信条に肩入れしているだけだ』
『……信条に、ですか』
『ああ。――あこぎな商売だ。余所様に迷惑を掛ける真似は、しちゃいけないし、させてもいけない』
バゼットは、そう語る士郎の目を見ていた。
ややあって彼女は頷く。士郎にはなんら利のない話だが、その為に商品価値の高い魔術刻印を諦めると言うなら嘘はあるまい。彼の言葉を信じる事にしたのだ。
そうして商談は成立する。バゼットは死徒を回収し、その場を辞し。士郎は白野を背負って彼女の家族の待つ場へと向かう。
士郎に涙ながらにありがとうと何度も頭を下げる岸波夫妻、彼らが礼をしたいと言うのを士郎は丁重に辞した。代わりに娘を大事にしてほしいと。言うまでもない事だったが。そして数少ない生き残りの彼らを隣街まで護衛して歩き、そこで暫し固まって待機して。翌日に魔術協会から出向してきた魔術師に暗示を掛けてもらい、彼らに昨夜の事件を不幸な大火災だったと思い込ませた。
忘れて貰う。そうするのが一番だと士郎にも分かっている。だが釈然としない。無知でいる事が身を守る最善の手段だが、無知のままでは彼ら無辜の人々は食い物にされるだけだ。
士郎は己の認識が余りにも甘かった事に、身を切る思いだった。
何も知らない人々だけが搾取される。そんなものは間違っている。
死徒。外道の魔術師。――彼らの存在は、百害あって一利なし。存在するだけで火種となる。
昔からそうだと知っていた。識っていただけだと思い知った。聖堂教会は教義がどうこう言っているくせに、強力な死徒に関しては野放しにしている。手に負えないから――割に合わないから。そんな弱腰、赦してはならない。
ああ、そうだとも。士郎は己の成すべき事を定めた。誰もが見て見ぬふりをする巨悪を滅ぼす、それだけが正義の味方ではない自分でも成せる正義だ。
『――死徒。諸悪の根源の一つ』
その祖を、滅ぼすのだ。殆どの死徒の根は、彼らだ。根から絶つ、故に根刮ぎと云う。
存在するだけで多くの命を食らう、人理を否定する存在を滅する。人の営みに寄生する吸血種を狩り尽くせば、岸波一家のような事例は激減するだろう。人の身を捨て、死徒となる魔術師も狩りの対象だ。他者を食い物にする事でしか成せぬものなど価値がない。
戦地の復興、飢餓の根絶、それらもまた戦うべき強大な敵だが。それらより先に滅ぼすべきは、表社会の誰も認知していない怪物である。
士郎は独自に戦いを始めた。見果てぬ戦い、命が幾つあっても足りない壮絶な戦争の始まりである。しかし、士郎は思い知る事に
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