士郎くんの戦訓 2/5
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れ、狙撃で一方的に殺戮する。無用に命を潰えさせる事を嫌悪した。彼らに命令を出す立場の人間の居場所を探し出して、それを狙撃する事も何度かあったのだ。
次第に士郎の存在は、彼らにとって看過できない大きな物となっていく。国を脅す個人――情報を操作して彼を悪人に仕立て上げようとしても、その動きを読んでいたように銃弾が襲う事が繰り返されれば、その動きも止まった。
血に染まった手が、弱き人を救う。正義の味方だと子供に名乗る。なんて事だ、偽善どころではない。穢らわしく、悍ましい所業ではないか。こんな事をしてなんになる? もう充分ではないのか? そもそも彼らを助ける義理はない。
だが、彼らの営みを豊かにする働きは、士郎の生きた証となる。曖昧な自我、蒙昧な自己を保証できる存在となる。俺はアーチャーじゃない、あんなふうには決してなれないと士郎は思う。自分なりに活動する事で、士郎は己という存在を自分で認められるようになっていく。
それが全てだ。それだけが全てだ。士郎は自嘲する。人の幸福が自分の助けになるのだ。ぐちぐちと迷う事は、ない。
国連にかねてより申請していたボランティア団体の設立案が通った。世論を味方につける為に、辛抱強く色んな国の取材も受けてきた苦労が実を結んだのだ。
代表は自分ではない。士郎がこの地に来て以来意志を同じくしてくれていた、気立てのいい女性に代表を務めてもらったのだ。この地に根を張るつもりなどないのだから、地元の人間に務めてもらった方がいい……その意を汲んでもらったのである。
教員を募った。食糧・衣類・文房具などの物資を手配するコネや金を、ここ数年で覚えてしまった忌々しい手段で獲得していた士郎は、それらが私欲で国に横領される事を抑止すべく――またしても脅迫した。
自分はこの国を離れるが。もし何かあれば必ず戻ってきてお前達を皆殺しにする、と。
士郎は口では己を正義の味方と云う。前途ある子供達に綺麗事を語る。しかし二十三歳になった士郎の胸中には、それとは真逆の思いがあった。
やはり己は正義の味方などではない。こんな外道畜生が正義などであるものか。俺は決して、あの赤い外套の弓兵のようには成れない――凪いだ湖面のように平たい絶望が心を蝕んでいた。
何人殺したのか、士郎は覚えていない。悪人ばかりだった、悪人に使われる兵士だった。しかしだからと言って殺してもいい理由にはならない。士郎はそう思っていた。己の偽善のために、人を殺して、脅して、奪った。その犠牲の上に様々な善を敷いた。――まさに偽善者だった。性質の悪い事に、この偽善は悉く己のエゴから生じたものなのである。そして後悔がまるでないと来た。
「……」
アーチャーは腕を組み、痛みを堪えるように目を瞑る。切嗣は赤いフードの下で、静かにその足跡を
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