士郎くんの戦訓 2/5
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かし真っ先に士郎の目に入ったのは――『悪』ではなかった。
身も心も痩せ細った人間だ。病に侵された者、餓えに苦しむ者、学を志しても何も成せぬ者。それこそ、日本のテレビにも写っていた――ありふれた、等身大の人々だった。
士郎は恥じた。悪を、汚れを許せないと、人を救わねばならないと義務感だけでやって来た己を自覚し恥じ入った。
成すべきは悪を滅ぼす事ではない、外道を排除する事でもない。こういった人達に救いの手を差し伸べる事ではないのか? 体の飢えを満たし、貧しい心を育ませる事。それを第一とすべきで、人々の悲劇に寄生する悪しき魔術師の排除は二の次、三の次だろう。
それはあらゆる罪よりも強大な敵との戦いだ。
どうすればいいのか、皆目見当もつかない。故に全ては手探りだった。
衛宮士郎の名前を使う気はない。フジマルという偽名を名乗り、紛争跡地の復興に努める。募金を募り、人を集め、食事の配給をする。自分なりに考え計算していた物資は瞬く間になくなった。
食べ物を前に人々が暴徒と化し、無関係な人達を混乱させてしまった事がある。銃やナイフを突きつけられ、所持しているものを脅し取ろうとする者もいた。利権に絡むからやめろと、暴利を貪る者や、勝手をするなら賄賂を寄越せと軍の人間が絡んでくる事もあった。凡そ想像しうる限りの困難が士郎を襲った。
直接的な命の危険は、どうとでもなった。戦闘技術で、国軍の軍人を相手にしても遅れを取りはしない。身体能力を強化し、必要な火器を投影して戦う士郎は、たとえ手ぶらであっても常に武装しているに等しい。狙撃されるかもしれない箇所には、そもそも近づかないか、狙撃地点となる場には常に細心の注意を払った。毒殺などの暗殺の危機も、事前に察知する術がある。
故に士郎が最も悩んだのは、彼が庇護しようとする人々が巻き込まれた時だ。
何度無辜の人を人質に取られたか。捕まり、拷問されたか。殺されそうになったか。その度に、なんで俺はこんな馬鹿な事をしてるんだと、自嘲した。でも止める事は出来なかった。
逃れ、脱出し、自身を捕らえた者とも辛抱強く交渉した。しかし話にもならない。聞く耳を持たれない。――殺すと脅し、身内を襲うと威圧し、汚い手を何度も使って、己が薄汚れた大人になっていく実感に吐き気を催しながらも、その地域での活動を黙認させるに至るのに一年もの月日を要した。
蓄えてきた知識を使い、自身で難民の人々が住める家を設計し、建築した。それを手伝ってくれる人々がいた。士郎の行いに恩義を感じてくれた人達だ。また士郎を手伝う事は、自分達の利にもなるという打算もあった。
士郎は良心の呵責もなく、国家元首を脅すようになっていた。
特殊部隊に襲われるのも日常茶飯事で。彼らを殺さずに制圧するのは困難で。逃走し、隠
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