士郎くんの戦訓 2/5
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『よく私に繋がる伝を見つけられたものだな』
『ロード=エルメロイ二世に借りを作りました』
『ほう? そこまでしたのか。まあそれはいい。そっちのお嬢さんに事情は説明していないようだな。蒼崎橙子だと名乗れば察しはつくか?』
『!? 蒼崎ですって……? シロウ、』
『イリヤ、俺に任せてくれ』
驚愕に目を見開くイリヤに、士郎は断固として言い聞かせる。我が儘、聞いてくれるんだよな? と。それにイリヤは眦を吊り上げるも、嘆息して力を抜いた。
悟ったのだ。これまでの二年間、士郎がしていた事を。ずっと――イリヤを助ける手立てを探していたに違いない。その途上で何をしていても、根幹にあった目的はイリヤだろう。
悟ってしまったからには、イリヤは士郎の気持ちを拒絶する気にはなれなかった。
『それで? 私にどうして欲しい』
『イリヤの新しい体を二つ作って欲しい。最高位の人形師である貴女に。一体は普通の人間として生きられる体を。一体は今のイリヤの体を模倣した器を。対価はアインツベルンの聖杯であるイリヤの体です』
『――アインツベルンの、聖杯だと? ほう、これはまた、とんでもないものを……』
面白いなと橙子は薄い笑みを浮かべる。冬木の魔術儀式を知らぬ魔術師は相当なもぐりである。橙子は当たり前のように冬木の聖杯戦争について知っていた。そしてその覇者となったらしい衛宮士郎の名も、また。
一般的な魔術師とは異なる、独自の哲学を持つ橙子ではあるが、聖杯に興味がない訳ではない。イリヤを興味深げに観察する。
興が乗ったのか、色好い返事を即答で出した。橙子からすれば、人形を二体作るだけで聖杯の器を手に入れられるなら、逆に貰いすぎなほどだと受け取れるからだ。
代わりに、貰いすぎた分は口止め料と、深く事情を詮索しない事で帳消しにするとした。ギブ&テイク、ビジネスライクに話を畳んだ方がいい。士郎の提案に橙子は乗り、商談は成立した。幾日かをかけて、器の作成から魂を移す工程を終えると士郎達は橙子と別れる。
イリヤはその全てを見届けていた。弟の我が儘は――イリヤに生きて欲しい、というもので。その為に奔走していた労力に報いるには、姉として受け入れるしかないと思ったのだ。
『……我が儘ね。ほんと、勝手なんだから』
人並みの寿命を、新しい体ごと手に入れたイリヤは微笑んだ。彼女の起源は「聖杯」である。そして魔術回路は魂に根差したもの。別の器であっても、イリヤの性能はさして劣化する事はなかった。
寧ろ健全な肉体を得て、肉体の成長という機能を得られたのだから、プラスにしかならない。アインツベルンの秘法が外部に漏洩しても、イリヤは拘るつもりはなくなっていた。
『ねえ、シロウ。貴方の旅は終わったの?』
『……いや。今度は桜だ』
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