士郎くんの足跡(後)
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。流石に長時間背負って、士郎も疲れたのだ。アーチャーは壊れ物に触れるように、恐る恐るイリヤスフィールを背負い、その様を凛が指を指して盛大に笑った。そっぽを向くアーチャーが、尚更に可笑しい。
士郎はセイバーに、ふと言った。なんでもないような、日常の会話の延長のように。唐突な、驚天動地の台詞を。
『セイバー』
『はい、なんでしょう』
『俺、今気づいたんだけどさ、お前の事が好きみたいなんだ』
『はい。……はい? し、シロウ、何を……!?』
『はあああ!?』
凛と慎二が絶叫した。
『あ、アンタっ!』
『桜はどうした!? オマエ、ふざけて言ってんじゃないだろうな!?』
『なんで桜が出てくる? ふざけてこんな事言えるか、馬鹿。一目惚れらしい、今気づいた』
『ちょ、』
『……はぁあ!?』
『シロウ……!? そんな、戯けた事を……!』
『別に誰を好きになっても俺の勝手だろ。受け入れてくれって訳でもない。そんな場合でもないしな。ただ、覚えてて欲しいんだ、セイバーに。応えなくていい、ただ俺がお前のマスターだった事を。俺がお前に惚れてたって事を』
士郎の、余りに真っ直ぐな好意と言葉に、セイバーは返す言葉が見つからなかった。
お前が欲しいとは言わなかった。答えを求められた訳でもなかった。ただ覚えていてほしいと、それだけを求められた。――返事のしようが、ない。拒む拒まないではないのだ、そんな次元ではない。
『はは。初恋は叶わない――って、本当だったんだなぁ』
何故なら士郎は弁えていた。セイバーは違う時代の人間で、別れは必然である。悲しむでも、嘆くでもなく、あくまで嬉しげだった。
慎二は思わず訊ねる。なんでそんな、笑ってられんだよ、と。惚れちまったんなら、手に入れたいって思わないのかと。
『は? 馬鹿だな。いいか? 忘れないでくれって頼めば、セイバーはきっと、俺の事を忘れないでいてくれる。それってつまり、永遠って事だろう? 思い出が手に入った。そこには、俺にとっての全てがある。セイバーはもう、手に入れてるんだよ』
『――』
セイバーは、返す言葉を見つけられなかった。士郎の透徹とした笑顔を直視して――堪らず、顔を伏せる。
在りし日、始まりの時、捨てたはずの少女が疼くのを殺して、セイバーは囁いた。
『――はい。私は、例え地獄に落ちても、貴方を忘れません。シロウ』
『そっか。よかった』
それは誓いだった。士郎を守る、絶対に守る。セイバーはサーヴァントとマスターという関係とは別に、衛宮士郎の剣である事を誓ったのだ。
顔から火を吹きそうなオルタとアルトリアを、ダ・ヴィンチはニヤニヤしながら見詰め、アグラヴェインは心底から形容しがたい表情をしていたが。――そんなふうに緩んだ空気は、
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