士郎くんの足跡(前)
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視力では遠くにいても視認すら出来ない。
「――速い。全く見えない……!」
かつてランサーのクラスカードを使用した事のある美遊が愕然とする。青い槍兵の正体を、美遊とイリヤはすぐに察したが、その戦闘能力は自分達の知るどの黒化英雄よりも数段上だったのだ。
それは赤い弓兵も同じ。剣の冴え、立ち回り、次元が違う。曲がりなりにも魔法少女としての力を持つ二人ですらそうなのだから、ただの一般人だった士郎にとっては人智を越えた戦いだった。
槍兵が真紅の槍を構える。穂先を地面に向けた謎の構え。迸る魔力の咆哮に、士郎は思わず後ずさりした。
『――誰だッ!』
青い槍兵が気配を察知するには、それで充分であった。士郎は咄嗟に背中を向けて走り出す。
その際、槍の魔力にあてられ立ち竦んでいた慎二を見つけた士郎は駆け寄り、その腕を引いて走り出す。そしてすぐに直感した。逃げ切れない、二人だとダメだ、と。
『慎二、逃げろ……!』
『え、衛宮……!?』
小声で叫び、士郎は慎二を自身の進行方向の反対側に突き飛ばした。よろめいた慎二を尻目に、士郎は小石を拾って、自身の向かう方にある校舎の窓に投げつける。
窓ガラスが割れた。士郎はそちらに走る。全力疾走する士郎に余裕はない。慎二は悟る、二手に別れたのは、どちらかが助かる為――そして、士郎は自分が囮になったのだ。
『あの、馬鹿……!』
慎二は士郎の意図を汲んで、走り出す。だが、見捨てた訳じゃないと、言い訳をした。
『ライダーを連れて、すぐ行ってやるから……それまで死ぬんじゃないぞ、衛宮……!』
士郎は走る。走って、校舎のどこかにいた。
必死過ぎて、どこを走っていたのかすら覚えていない。そして、槍兵が追ってきていない事を確かめる為に背後を振り向き、誰の姿もない事に安堵の息を吐き出して――その背後から、声を掛けられる。よう、随分遠くまで逃げたな、と。
前方には誰もいなかったはず。慌てて振り向いた士郎の心臓に、真紅の槍が突き刺さった。
「ひっ」
イリヤの短い悲鳴。士郎の胸から槍が引き抜かれ、血が溢れる。血溜まりに倒れ伏した少年は、遠退く意識の中で、少女の声を聞いた。
そして、目覚める。死んだはずなのに、生きている不思議に首を捻り。意識を朦朧とさせたままで、落ちていた宝石を拾い上げると、よろめきながらなんとか帰路に着いた。
帰巣本能だ。それより、何より、落ち着ける場所を欲していた。暗い自宅の中士郎は自問する。あの男は、口封じの為に襲ってきたようだ。もし自分が生きている事を察したら――その時、屋敷に張られていた結界に反応があった。
本能的に危機を察して、士郎はポスターを強化すると、土蔵に向かおうとする。何か武器になるものを求めて。しかし、
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