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人理を守れ、エミヤさん!
士郎くんの足跡(前)
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ろうと、切嗣は楽観したのだ。

 場面が変わる。まだ高校生だった剣道少女、藤村大河と出会った。実の姉弟のように仲良くなった二人は、老け込んでいた切嗣を振り回してよく遊びに出掛けていた。
 士郎は切嗣を父とは呼ばない。ジイサン、切嗣と呼ぶ。父親の名前も、母親の愛も、親しかった友達の事も覚えている。彼らの事をなかった事に出来なかった。それに――養父を、父と呼ぶのが照れ臭かった。

 切嗣は頻繁にどこかへ旅立って。一人になると嘆く。イリヤ、と。士郎はそれを、偶然聞いた。
 イリヤって誰だよと訊く。切嗣は慌ててなんでもないと言うも、士郎はしつこかった。何度も訊ねるにつれ、遂に切嗣は折れてこう答えた。

『士郎。イリヤというのはね、僕の娘なんだ』
『はあ?』
『君の、そうだね……姉だ。なんとか会いに行こうとしてるんだけど……中々会えなくてね』

「え、姉……?」

 困惑するイリヤ。エミヤは瞠目している。磨耗し果てた記憶、正確な事は覚えていない。しかしこの士郎は、明らかに自分とは違う存在だと、この時点で悟っていた。

『なんでだよ』
『……妻がいた。その妻の家が、娘に会わせてくれないんだ』
『父娘を会わせないって、なんだよ。どうにかならないのか、それ』
『うん……どうにか、したいんだけどね。……でももう、諦めるよ。今の僕じゃあ、どう頑張っても辿り着けない』
『なんで諦めるんだよ!』
『士郎?』

 少年は怒っていた。難しい事は解らなくても、理不尽な何かに怒っていた。不条理な事が、一方的な事が、少年には堪らなく我慢ならなかったのだ。

『……ごめん。そして、ありがとう。怒ってくれて』
『ジイサン!』
『いいんだ。ただ――士郎。君がもし、イリヤに会えたらでいい。その時は、君が助けてあげてほしいんだ。僕の娘を。君の、姉を』
『っ……! もういい!』

 憧れている正義の味方の、弱り果てた笑顔に、士郎は憤りも露に走り去る。
 時が経つ。場面が変わると、そこは武家屋敷の縁側だった。月が綺麗で――更に老け込んだ切嗣と、少し成長した士郎が並んで座っていた。

『――僕はね、昔、正義の味方に憧れていた』
『……それも諦めたのか』
『うん』

 何年か前の、娘の事を話したのを士郎が覚えていると察して、切嗣は薄く笑う。儚い老人の笑みだ。実年齢からは考えられない。
 呪いに侵されているのが誰の目にも明らかだ。終始穏やかに、正義の味方について、切嗣は語った。期間限定の存在を、大人になっても追い求め続け、その理想に潰された。切嗣の独白に、赤いフードの暗殺者は無言だった。

 それに、少年が言った。

『なら、俺が代わりになってやるよ』
『――え?』
『ジイサンは歳だから無理でも、俺ならなんとかなるだろ。任せ
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