士郎くんの足跡(前)
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に捕まって、腕を絡められて彼女の隣にいる。赤いフードで顔を隠してはいるが、アイリスフィールへの困惑と、面倒臭そうな雰囲気は隠せていない。
イリヤ達少女組は、用意された椅子に座った。流石に何時間も立ちっぱなしではいられないだろうという配慮だった。ロマニはいない、彼は多忙だから――ではなく。既に早送りとはいえ一部始終を視ている。仕事に移っていた。
「それじゃあ、はじめるよ」
ダ・ヴィンチが自身の杖を軽く振る。すると、辺りが一気に暗く、赤くなった。
現れた光景は、炎に呑まれた冬木。イリヤ達はいきなりの炎獄と、そこにある凄惨な光景に絶句する。え、いきなり? と。
しかし冬木を何度か見ているサーヴァント達やマシュはさして驚きはしなかった。
炎の中を、赤毛の少年が歩いている。士郎だ。ふらふらと歩き通し、助けを乞う声に耳を塞ぎ、あてもなく彷徨っている。一目で、この少年が士郎なのだと誰の目にも分かった。
この子だけでもと、瓦礫の下から子供の骸を出し、死んでいる事にも気づかぬまま助けを求める誰かの親がいる。死にたくないと喘ぐ声がある。自分が助かる事だけに精一杯で、それら全ての声を黙殺して――少年は只管に歩いていた。罪悪感に潰れそうになりながらも、しかし、少年の目は死んでいない。
生きてと、母に願われた。逃げろと、炎に呑まれた家から押し出してくれた父がいた。だから、少年は必死に生きようとしていた。お父さん、お母さん――譫言のように両親を呼びながら、流れそうな涙を堪えて、足を引きずりながら必死に歩いていた。
空に穿たれた黒い孔を見上げ、歩く。歩き続ける。やがて少年は限界を迎えた。全身を焼かれながら歩いていたのが、その小さな体が倒れ伏す。
誰も声もない。呪詛に焼かれた街と、炎に呑まれて消えた命。悲惨な地獄絵図の中、少年の命が尽きようとしている。
――それが、救われた。
『生きてる! 生きてる! よかった、生きている! ありがとう、ありがとう……!』
少年を救い出したのは、衛宮切嗣だった。お父さん……? イリヤが呟く。見た事もないほど必死な、自らの実の父を見た。そして美遊も、見た事がない養父の姿に呆然とする。
少年は、自身の手を掴む男を見上げ――安堵の溜め息を溢した。ありがとう……。その意思は、心は壊れていなかった。
暗転する。士郎が自身の養父となった切嗣と、穏やかな日々を送る。魔法使いなんだ、と言った切嗣に。あの地獄から救ってくれた切嗣に憧れた少年は、なんでも彼の真似をしたがった。
魔法を教えてくれよとせがむ士郎に、渋々応じる切嗣だが――士郎の異質さに気づく。そして、その才能が災いを齎す事を危惧し、わざと誤った鍛練方法を教えた。全く実を結ばない方法を。これならきっと諦めてくれるだ
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