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戦国異伝供書
第二十九話 安土入りその六

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「ですから」
「見付からなかったか」
「何一つとして」
「左様か、しかし伊賀はな」
「棟梁は、ですな」
「半蔵だけではないな」
「はい」
 その通りだとだ、蜂須賀も答えた。
「伊賀者の棟梁といえば」
「百地三太夫という者もおるな」
「左様です、どうもあの御仁は」
「謎が多いか」
「はい」
 まさにというのだ。
「一体何者か」
「それではな」
「百地殿がですか」
「楯岡達についてはな」
「関わりがある」
「そうやも知れぬ、だからな」
 それでと言うのだった。
「ですから」
「よし、ではな」
「百地殿のことを」
「調べよ。そして若しじゃ」
「あの者達と関わりばあれば」
「捕らてな」
「首を刎ねますか」
 蜂須賀は信長に鋭い目で問うた。
「そうされますか」
「その時はな」
 信長も鋭い目で答えた。
「その様にする」
「では」
「あの者も調べよ、しかしな」
「調べてもですか」
「あの者が切れるなら」
 それならというのだ。
「もうじゃ」
「手掛かりになりそうなものをですな」
「一切消しておるであろう」
 こうも言うのだった。
「既にな」
「左様ですか」
「そしてじゃ」
 信長はさらに言った。
「後は知らぬ存ぜぬでな」
「その様にですか」
「そうしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「乗り切るであろう」
「それは厄介ですな」
「しかしそれがであろう」
「はい、忍です」
 その通りだとだ、蜂須賀も答えた。
「隠すことが」
「隠れることが忍であってな」
「はい、そして」
「隠すこともじゃな」
「左様です」
 蜂須賀もこう答えた。
「そのことも」
「ではな」
「百地にしても」
「こちらが調べてもな」
「容易にはですな」
「尻尾を出さぬわ」
 信長は見極めている目で語った。
「ましてやあの者も伊賀の棟梁じゃな」
「はい、服部殿と同じく」
「ならばな、しかしな」
「しかしといいますと」
「伊賀の忍達は一つではないのか」
「服部殿だけではないとですか」
「その様じゃな、百地家はな」
 この家の者達はというと。
「伊賀者でもな」
「服部家とはですな」
「また違う家であるな」
「つまり伊賀者には二つの流れがあると」
「そう思えてきたが」
「確かに。服部殿の方はです」
 彼が率いて家康に仕えている伊賀者達はとだ、蜂須賀は彼等と同じ忍の者としてはっきりと語った。
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