クールになるんだ士郎くん!
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木に関する聖杯戦争については正確に記憶している。それだけ色褪せない鮮烈な経験だったというのもあるが、冬木の聖杯が内包するものに、一度は呑み込まれた体験が、俺に『忘れる』という逃避を許さなかったのだ。
故にこそ聖杯の泥とそれにまつわる因縁を、俺は知悉している。
あの海魔は、聖杯に取り込まれた英霊の宝具によるもの――即ち黒化英霊の出現を示したものだ。である以上、アインツベルンであり、また小聖杯でもあるアイリスフィールが異変を察知していないわけがなく、俺はアイリスフィールにそれとなく探りを入れるつもりだった。
そのために俺はサーヴァントを傍から離し、一見して無防備であるように見せた。力関係的にサーヴァントを傍に置くアイリスフィールの方が優位であり、その精神的な優位は相手に安心と油断を招く。ある意味嫌らしい手法だが、俺からすれば油断する方が悪い。
そんなことを考えていた俺に、アルトリアは感心したような、呆れたような、微妙な声音で語り掛けてきた。
「俺が剛胆? 何を見てそう思う」
眉を落としてのアルトリアの言葉に、小心者の俺はほんの少し可笑しさを感じた。
自分のことを知らないアルトリアが、いやに新鮮に思える。それだけ深い付き合いだったのだと思うと懐く感慨も味わい深かった。
「貴方は私を前にしていながら、自身の傍からランサーを離した。異変を察知するなり下したその判断に敬意を抱きもしますが、それよりも些か不用心だとも思います」
「なんだ、そんなことか」
何を以て剛胆と称したのか不可解だったが、彼女からすれば直前まで敵対していた相手に、こうも無防備を晒すのは驚くに値したのだ。信頼するには時期尚早ではないか――俺の軽挙とも取れる判断を、高潔なアルトリアは戒めてくれている。
俺は苦笑した。俺にとって同盟を組んだアインツベルンは信頼するに値する存在だったからだ。
何せ――
「アインツベルンと俺は同盟を結んだ。であればそのサーヴァントであるお前が、俺に対して刃を向けるなど有り得ないことだ。騎士王アルトリアはそういう奴で、そのマスターであるアイリスフィール・フォン・アインツベルンも、同盟を組んだ相手の不意を突いて殺めようとはしないだろう。もしも斬られたなら、その時は俺の眼が節穴だっただけのことだよ」
もし切嗣がいたら絶対に信頼しなかったが。
ともかく、一旦味方となった相手を、信義に悖る行いに手を染めてまで斬る不義の輩ではないと俺は知っている。アイリスフィールについては、そういう人物なのだと勝手に判断したまでのことだ。
あのアルトリアがなんの迷いもなく彼女を信頼し、衒いなく戦えている時点で、彼女もまた信じるに値する。アルトリアを通しての判断だから、アイリスフィールが見込み外れの不埒な輩だった
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