第6章:束の間の期間
第194話「合間の出来事・前」
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だに悲しみは残るものの、会話出来るぐらいには落ち着いた。
「……お兄ちゃんは……兄は、立派でしたか……?」
「……ええ。実際に立ち会った訳じゃないけど、本当に立派だったわ。決して勝てないと分かっても、それでも生き、足掻こうとした」
「記録には映像と声しか残っていないけど、きっと君のために生き延びようとしたんだと思うよ」
これは慰めからの言葉ではない。
椿も葵も本心からそう言っていた。
「……何よりも、彼のおかげで敵に大きな傷を負わせることが出来た」
「兄のおかげで……?」
「命を投げうってでも撃ち込んだ術式が後の戦いでも残っていたの。……それに気付いた優輝が、彼のデバイスを使って術式を発動させたのよ」
ティーダがいたからこそ、守護者を追い詰められたと椿は言う。
事件の詳細を知らないティアナだが、兄の働きは無駄ではなかったのだと理解した。
「そう、ですか……」
「……っと、忘れる所だったわ。優輝」
「ん?ああ、これだな」
椿が優輝に呼びかけ、優輝は懐からあるものを取り出す。
「これは……デバイス、ですか?」
「ああ。……ティーダさんの、な」
「ッ……!」
それは銃型のデバイス。“ミラージュガン”。
ティーダの使っていたデバイスだ。
「戦闘で借りたが、壊れる羽目にならず済んだ」
「形見、と言う事になるわ。どう扱うかは、貴女の自由よ」
テーブルの上に出されたそれを、ティアナは恐る恐ると言った様子で持つ。
“形見”。自身の兄が遺したもの。そう思って、ティアナは胸元に持ってくる。
「……ありがとうございます」
「お礼なんて構わないわ。貴女はまだ子供。……誰かを頼るのは普通の事だもの。だから、辛い時はちゃんと周りを頼りなさい」
それでも感謝の思いは収まらない。
そんな様子で、ティアナはまた頬を涙で濡らした。
……数日後。
予定通りに葬儀は行われた。
魔法関係の事件に関わるため、殉職者が比較的多い管理局員の埋葬は、日本と違ってそこまで仰々しく行われない。
それでも、殉職した人達の家族や知り合いが多く集まり、大きな規模になっていた。
「……本来ならこの何倍もの人が死んだ……のですよね……?」
「ええ。現地の一般市民、こちらで言う魔導師のように力を持った存在である退魔師を合わせれば、この五倍の人数には届くわ」
「そんなに……」
だが、その人数も実際に出た死者の数に比べれば一部に過ぎない。
ティアナは事情を聞いていたものの、それほどの数の人が死んだ事に驚いていた。
「……あたし達も、一歩間違えればここにはいなかったよ」
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