ターン3 蕾の中のHERO
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「一昔前は『赤髪の夜叉』なんて恥ずかしい名前で呼ばれてた私の後輩だよ」
「爺さん……別にその名前はアタシが名乗ったわけじゃないっての」
にやにや笑いを隠そうともせず名乗りに横槍を入れてきた七宝寺に、うんざりしたような表情を向ける。彼女が現役だったかつてのプロデュエリストにはほぼ全員、何らかの二つ名がある。それはデュエリストという職業がまさしくエンターテイナーであったことの象徴であり、その中にあって1人1人の確かな個性を謳うプロとしての誇りの象徴でもあった。自発的に名乗る場合もあれば、そのファイトスタイルや使用デッキからいつの間にかファン内での相性が定着していく場合もある。彼女の場合は後者の典型的なパターンで、男相手でも容赦なく食らいつき叩きのめすデュエルスタイルからいつの間にか名付けられていたものだ。
彼女にも、そのかつて呼ばれた名前に対する誇りはある。だがプロであることをやめデュエルポリスに再就職した際、それはもはや捨てたものだとも思っていた。自分がプロであった証であるそれを誰よりも大切に思うからこそ、この仕事に身を落とし国家権力の犬となった時に捨てた名前だと。
「糸巻さん、ですね?初めまして!」
キョロキョロと2人の顔を見比べ、糸巻の苦い顔をどう受け取ったのか名乗った名字の方で呼ぶ八卦。自分の娘と言っても通用するような年頃の娘に気を使われたことを悟り、余計に表情が渋くなる。こんな時に煙草が吸えればいいのだが、さすがの彼女も大先輩の目の前、それも仮にも禁煙な店の中で堂々とそれを取り出すほどの図々しさはない。
「辛い時代だねえ、糸巻の。これぐらいの年の子だと、もはや私たちのことなんて知りもしない。これも時代の流れとはいえ、なんともやりきれないものさね」
「……ああ、そうだな」
にやにや笑いを引っ込めた諦め混じりの表情で呟かれた言葉に、糸巻も神妙な調子で合わせる。その言葉通り、八卦は糸巻の過去を知らない。だがそれは、彼女が無名だったからではない。「BV」事件の後、テロ活動が小康状態になったほんのわずかな平和期間で世界的な広まりをみせたデュエルモンスターズへのバッシング行為。何冊もの雑誌が廃刊に追い込まれ、媒体はすべて廃棄され、無数のカードショップが焼き討ちにあった、デュエリストの地獄ともいえる暗黒期。八卦ほどの年ならば、あの時失われた当時の記録に関する記憶はもはや忘却の彼方だろう。
「本当に、つまんない話だ」
そしてその時ほとんどの国は、何もしなかった。幾度もの被害届や陳述書にも関わらずが何かしら声明を出すでもなく、首謀者の検挙に形だけでも乗り出すこともなく、ただひたすらに静観を貫いていた。
要するにそれは、世界としても「BV」を機に変わってしまったデュエルモンスターズとの新たな関わり方を模索し
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