ターン3 蕾の中のHERO
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には現役時代から彼女自身も何かと世話になってきたのだが、ちょうど「BV」の発表が行われるほんの少し前に寄る年波を理由に引退を発表。その後は直後に起きた事件のごたごたもありすっかり行方不明となっていた彼にこの町の片隅、懐かしい名前に惹かれふらりと入り込んだ先で出会った時には、さすがの糸巻と言えど目を丸くしたものだ。
「もったいないな、爺さん。アンタならまだまだ現役でもやってけるだろうし、こっちはいつだって人手不足だってのに」
「ひひっ、よしておくれ。今の流行にはついていけない、年寄りの体を危険にさらすんじゃないよ」
この会話も、もう何度繰り返したことだろう。糸巻が勧誘し、七宝寺がそれを蹴る。まるで変わらない返答に仕方がないと肩をすくめ、ここに来た本題へ気持ちを切り替えた。
「……まあいいさ。爺さん、副業の依頼だ」
「だろうな。新パックも出ないこの時期にアンタがわざわざ顔を出すんだ、どうせまたくだらない話でも掴んできたんだろう?」
「その通りだよ。まず……」
「ああ、少し待っておくれ。その話はまた、もう少し後にしたほうがいいだろうさ。もういいだろう、そろそろ出ておいで!」
「へっ?おじいちゃんいつから気づいて、う、うわぁーっ!?」
何の前触れもなく大音量で一喝すると、驚きの声と共に七宝寺の背後にあった陳列棚に隠れて聞き耳を立てていたらしい1人の少女がバランスを崩しその場で派手に転んだ。すぐ我に返って2人の大人に見降ろされていることに気づいた少女が、床に倒れたままばつの悪そうな笑みを浮かべる。
だがこの時、驚いていたのは糸巻も同じだった。彼女にはプロデュエリストとして、肉体的にもかなりの鍛錬を積んできたという自負がある。素人程度の尾行、具体的にはスキャンダル狙いのパパラッチ程度なら彼女1人でも気づいたうえで撒くことも可能だ。しかしその研ぎ澄まされていたはずの彼女の感覚は、目の前のまだせいぜい中学生程度であろう少女の存在を今の今までまるで認識できていなかったのだ。
だがその驚きは顔に出さないよう努め、目の前の老人に視線を戻す。
「おじいちゃん?爺さんが?」
「ひひひっ、似合わないと思うかい?でも私の孫じゃないよ、第一私は天涯孤独な独居老人さね。この子は姪の……さ、ご挨拶しな。大丈夫。この人はね、私の古い知り合いさね」
「は、はいっ!」
七宝寺が姪と呼んだその少女が慌てて立ち上がり、びしっと背筋をまっすぐに伸ばし糸巻の目を見上げる。仕事柄というのもあるだろうが、今時珍しいほどに純粋な瞳に見据えられてややたじろいだ彼女にはきはきとした大声で告げる。
「先ほどは失礼いたしました!初めまして、最近おじいちゃんの家に越してきました、八卦九々乃と申します!」
「あ、ああ。アタシは糸巻……」
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