ターン3 蕾の中のHERO
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オフィスを飛び出た糸巻が一直線に向かったのは、とある小さなカードショップだった。その看板には堂々とした書体で「カードショップ 七宝」と書かれている。デュエルモンスターズが危険視されて以降、当然ながらどこの町でもカードショップは年々縮小傾向にある。この店が続いているのにはまた別の理由があるのだが、自力で細々とした営業を続けている店を見るたびに、彼女はほんの数年前までどこの店でも毎日のようにたくさんの子供が小遣いを握りしめて目を輝かせカードを物色していた様を思い出してなんともやりきれない気分になる。
そんな柄にもないノスタルジックを否定するかのように、まさに店内に入ろうとした彼女の向こう側から先ほど閉めた扉が開いた。
「おっと、悪いね」
「いえ、こっちこそすみません」
年の頃は15、6といったところだろうか、と見当をつける。それとも、もう少し上かもしれない。大人びた黒い目が特徴的な1人の少年が頭を下げ、彼女と入れ替わるようにしてその場を去っていった。
「おや、またお客さんかい?いらっしゃい……ああなんだ、糸巻の」
「相変わらずご挨拶だね、七宝寺の爺さん。客に向かってなんだはないだろうに」
店の奥から顔をのぞかせたのは、まだわずかに黒いものが混じるとはいえほぼ白髪の小柄な老人。七宝寺と呼ばれた彼が糸巻の姿を認め、小さく笑みを浮かべた。
「ヤニ臭い格好で入ってくるようなのを客と認めた覚えはないよ。ここの敷地跨ぐならせめて1時間は禁煙しろって言ってるだろう?売り物に臭いがうつるし、それに勤務中のデュエルポリスにづかづか入ってこられたらこの近くでの心証も落ちる」
「よく言うよ、どうせ普段から閑古鳥ぐらいしか入ってこないくせに。ピーチクパーチクさえずってる中にこんな見目麗しいおねーさんが入ってきてやったんだ、むしろアタシには泣いて感謝してもらいたいね」
「ひっひっひ、よく言うよ。それに客なら糸巻の、アンタもたった今すれ違ったろ?」
しわだらけの顔に浮かべたにやにやとした笑みを濃くしながら、先ほど閉めた扉の方を痩せた手で指し示す老人。先ほどぶつかりかけた子供の顔を思い出しつつも、
「ああ、あの子供か。おおかた友達との罰ゲームかなんかじゃないのかい?不気味な爺さんがいる店に1人で入ってこい、ってな」
「ひひっ、まあそういう輩がいることは否定しないがね。きっかけなんてなんだっていいのさ、なあ?私も、アンタも。理由はどうあれ、カードに……デュエルモンスターズに魅入られたからこそ、そこにいまだにしがみついている。私はもう、現役はこりごりだけどね」
この言葉が示すように、この男もまたかつてはプロデュエリストの1人であった。糸巻よりもはるかに前からプロとして生計を立てていた彼
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