割と外道だね士郎くん!
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薄笑いと共に、挑戦状を叩きつけた。
「問うな。元より我らは戦う者。答えの真偽は槍で探るものだろう」
「――ならば」
「ああ。後は殺り合いながら、だ。敵と刃を交えるなら、ただ屠るのみ」
「此処で?」
「此処でだ。ルールは簡単だ。物を壊さず、他者に気取られず、槍兵らしく速さを競う。鮭跳びの秘術――修めてねぇとは言わねぇよな?」
「無論ッ!」
叫ぶように応えるや否や、ディルムッドは空気の壁を突き破って馳せていた。
幼少の頃。夢見た邂逅。時の果てに叶った憧れの輝き。武者震いと共に顔が歓喜に歪んだ。
クー・フーリン。全てのエリンの戦士の憧れ。死の象徴。最強にして死の境を越える者――双槍を操り打ち掛かり、術技を振り絞って挑戦する。
異邦の槍兵と、冬木の槍兵は、一陣の風すら置き去りに音速の遥か先で駆ける。虚空に無数の火花を散らしながら、ビルの壁を足場に、時には互いが衝突した衝撃を利用して空中で舞う。
それは、人の目には何も映らぬ神域の速さ比べ。
クー・フーリンは猛々しく笑い、己の槍を振るうに足る敵と認めた。
「この一撃、手向けとして受け取るがいい。
『刺し穿つ』――」
「ランサーのマスターだな?」
ぬ、と背後から伸びた手に肩を叩かれ、気安げにそう問い掛けてきた男にケイネス・エルメロイ・アーチボルトは自らの不覚を悟った。
ケイネスの婚約者ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは此処にはいない。ホテルの一室で待って貰っている。しかし単独でランサー・ディルムッドを運用し、いずれかの陣営を釣り出そうと目論んでいたケイネスが、容易く背後を取られるとは思いもしなかった。
慎重を期すのは当たり前。魔術を用い自らの姿を隠していたはずのケイネスを、この男は当たり前のように見つけ出し、背後を取った。冷や汗が流れそうになるのを、魔術師としての精神力で堪え、ケイネスは背中に膨大な神秘を感じながらも誰何した。
「――如何にも。私はランサーのマスター、ケイネス・エルメロイだ。後ろから素性を問うのがそちらの流儀なのかね? 些か野蛮だと指摘しよう」
「おっと。これは失礼した。なにしろ臆病者でね。名にし負うロード=エルメロイの正面に立つには、ある程度の精神的優位性がないとやってられんのさ」
流暢な英語による応答である。
ケイネスはそこに不愉快な訛りがないことにおや、と思いつつ、ゆっくりと振り返った。
其処には、東洋人がいた。若干の落胆を覚えるも、身に纏う礼装の質に気を持ち直す。
色素の抜けきった白髪と、鍛え上げられた肉体。赤い聖骸布と、籠手の礼装。現代風の衣装に仕立て、街中にいても不自然ではない格好である。加え、後ろ腰に下げた剣は明らかに尋常ではない魔力濃度だった。
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