第一章
[2]次話
母子
複雑な関係だった、エジプトのファラオであるトトメス三世はまだ幼いが父であるトトメス二世によって次のファラオに指名され実際にその座に就いた。
だが彼は幼いながらも彼の周りにいる武人達を中心とした側近達に漏らしていた。
「余はファラオであるな」
「はい、その通りです」
「貴方様こそがファラオであられます」
「この国を治められる方です」
「そうだ、余はファラオだ」
紛れもなくとだ、トトメス三世は側近達の言葉を受けてからまた述べた。
「この国を治めるな。しかしな」
「あの方ですか」
「あの方のことを思われますか」
「今も」
「義母上がおられる」
彼女のことをだ、トトメス三世は言うのだった。
「私の隣にはな」
「左様ですね」
「あの方がおられます」
「ファラオの横には」
「もう一人のファラオであるあの方が」
「女はファラオになれない筈だ」
鋭い顔になってだ、トトメス三世は言うのだった。
「それがだ」
「あの様にですね」
「ファラオの横におられる」
「女であられますが」
「それでもですね」
「義母上のことは余もわかっていた」
幼い、だが類稀な鋭さによってトトメス三世は義母であるハトシェプストのことがわかっていたのだ。彼の父の姉であり自分にとっては義母であるだけでなく叔母でもある彼女のことを。
「女であるがな」
「ファラオの座を求めておられました」
「先王の頃から」
「そうしてです」
「今もファラオの座に就かれました」
「強引にな。余が幼いからという理由でな」
トトメス三世はこのこともわかっていた、ハトシェプストが何故ファラオになることが出来たかもをだ。
「しかも祖父上のお子、父上の姉上にして正室であられる」
「これ以上はないお立場です」
「確かに女ですが」
「しかも力もおありです」
「治める資質を備えておられます」
「余がもう少し大人であれば」
トトメス三世は歯噛みしつつこうも言った。
「対することが出来たかも知れないが」
「今は時を待ちましょう」
「ファラオは学ばれて下さい」
「ハトシェプスト様も何時か倒れられます」
「それもファラオより先に」
「そうだな、では待とう」
忍耐、それが必要な時である。確かにまだ幼いが精悍さがもう顔に出ているファラオは側近達に強い声で答えた。
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