二十 木ノ葉のスパイ
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蛇の鱗を思わせる石柱。
ちょろちょろと蛇の舌先のように裂けた炎が宙を舐める。点々と燈った蝋燭が仄暗い闇に橙色の光を落としていた。
殺風景な回廊は、まるで蛇の内部の如く長い。
四方を壁で囲まれた長い長い廊下のその先には広間があり、蛇の頭を象った銅像が鎮座している。空ろな眼窩には、ちょうど眼球のように蝋燭の炎が灯っている。
蛇の銅像は赤い瞳を爛々と輝かせ、まるで生きているかの如く、鎌首をもたげていた。
「十日後…天地橋ねぇ…」
蛇の眼から洩れる淡い光。蝋燭の炎に照らされて陰鬱な室内がほんの微かに明るくなる。
しかしながら、陰気で重苦しい空気が漂う此処では、橙色の光はいっそ不気味に感じられた。
「はい。其処で落ち合う手筈となっております」
風で揺れる蝋燭故に、闇と光を交互にその身に受ける。こうべを垂れていた相手の頭を大蛇丸は見下ろしていた。
頬に手をやり、なにやら思案した後、やがて蛇を思わせる双眸を細める。
「その情報を私に伝えるという事は…」
「大蛇丸様のご意向のままに」
かつて『暁』のサソリのスパイとして自分の許へ潜り込み、今や立派な自分の片腕として役立っている部下。
彼からの進言に、大蛇丸は「お前は本当に、末恐ろしいわねぇ…」と口許に苦笑を湛える。
「自分の元主人も平気で売るのだから」
「今の主人は大蛇丸様ですから」
しれっと答えたカブトは話の内容とは裏腹に、その柔和な表情を浮かべる。人当りの良い穏やかな微笑みは、とても以前の上司を裏切るようには見えない。
「裏切者は何度だって裏切るものよ」
暗に、自分の事もいつかは裏切るのではないか、と冗談雑じりに訊ねた大蛇丸に、カブトは「とんでもない」とゆるゆる首を振って否定を示す。
「僕ほど忠誠心が篤いものはおりませんよ」
「よく言うわ」と苦笑した大蛇丸の後ろに付き従いながら、カブトは言葉を続けた。
「では、十日後の天地橋の真昼にて…」
「ええ…────なんにしても楽しみだわ」
くつり、と喉を振るわせて口角を吊り上げる大蛇丸の背後で、カブトは背中に視線を感じた。流し目で背後を確認したカブトは、視線の持ち主に思い当ると、さりげなく眼鏡を押し上げる。
秘かに口角を吊り上げると、大蛇丸には気づかれぬよう、視線の先を自分の背中で受け止める。
カブトの些細な所作には気づかず、大蛇丸は唇に怪しげな微笑を艶やかに乗せた。
その笑みは、以前自分が座していた組織を懐かしんでいるのか、それともかつての仲間との再会を待ち遠しく思っているのか定かではなかったが、どこか愉快そうな風情でもあった。
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