麗しの女狩人
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わぬ。麗しのアタランテ、アルゴー船にも乗ったことのある伝説の狩人と出会えた余は感動しておるのだ。その立ち居振舞いの一々に余は見惚れてしまう。どうして麗しのアタランテを責められよう……」
「そ、そうか。しかしその麗しの、というのはやめてくれないか。なんというか、こそばゆい気分になって仕方がない」
「むぅ……ぴったりの異名だと思うのだが……ダメか?」
「んっ。そ、そんな子犬のような目で見てもダメなものはダメだ。照れてしまうではないか……」
ネロの主従が早速、親睦を深め始めたのを尻目に、俺はその様子を観察する。
するりと相手の懐に入ってしまうネロは流石だが、相性自体も悪くなさそうだ。
アタランテと言えば、その敏捷性もさることながら足も早く、弓の腕も優れているだろう。狩りの腕は英霊屈指と言えるかもしれない。またそれに付随する嗅覚も。
だが……。
――アーチャーか。よりにもよって。
俺は溜め息をこっそり吐いた。
やはり、ランダム召喚などするものではない。
ネロは俺と同じく、最も重要度の高い警護対象である。故に守りに長けたサーヴァントか、戦車などで行動を共に取れるサーヴァントが望ましかった。
なのにアーチャーである。おまけに単独行動に秀でた狩人ときた。誰かの護衛などしたこともないだろうし、誰かを守るという行為自体に適正がなさそうだ。
これは、アルトリアにネロのことをよく守って貰わないといけない。オルタは性格的に除外して、俺の守りはマシュが外せない。対し、アルトリアは俺がまだしょっぱかった頃を護衛したことがあるし、そもそもが優れた騎士だ。守りは固い。
アルトリアをネロの守りに配置し、アタランテは遊撃戦力として運用したいが、彼女はネロのサーヴァントであるからして、ネロの采配に託すしかなかった。
なにはともあれ。
「ネロのサーヴァントも召喚は完了した。行こう、もう憂いはないはずだ」
俺は皆に促し、今度こそローマに向けて進行を開始した。
――何を隠そう、このドゥン・スタリオン号とラムレイ二号は水陸両用の水上も走れる高性能バイクである。
凪いだ海を航るのに時間はかかった為、ブリタニアを後にしてガリアに上陸する頃にはすっかり陽も暮れていた。
ネロは、変わり果てたローマを見て、唖然としている。
見渡す限りの木、木、木。
深紅の神樹は遠くに屹立し、更に雄大なものとなっている。過剰なほどの緑豊かな森がローマの大地を埋めつくし、ガリアの都市も木々に囚われ無惨なものとなっていた。
なんたることだ……喘ぐようにネロはそう溢し、頭を振って決然と前を見た。
人の営みを否定する自然の猛威。やはりローマは、ローマを、人を否定している。
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