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人理を守れ、エミヤさん!
テロリストは斯く語りき
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「いや、違うと思うぞ。――すまん。あんたの時代の酒という名の水と、俺の時代の酒は別物だと気がつかなかった」

 言って、マスターはネロの勘違いを正した。大体、ネロが飲んでいたのはノンアルの甘酒である。それにさえも満足感を得ているネロに言えたことではない。
 むべなるかな。ネロとクー・フーリンはほぼ同時代の英雄だが、一世紀のローマの酒はワインが主流で、それに次いでメジャーだったのが蜂蜜酒のアクア・ムルサというもの。言うまでもないが現代の酒の度数と比べると、酒好きからすれば天と地ほどの差がある。士郎からすれば、この時代の酒は濁った水程度。酔う酔わない以前に、酒とも思えない。無論神代の神秘を含んだ酒は別物として考えるが。
 古代の人間であるクー・フーリンとネロにとっては、現代の酒は度数が弱い。甘酒で充分酒として通用するし、そもそもぐでんくでんに酔っ払ったことなどないだろう。
 それが、いきなり現代の日本酒――特に士郎向けに調整してある手製の物を飲んでしまえば、驚いてひっくり返るのも無理はない。

 士郎の隠し持っていた日本酒の瓶に手を伸ばすネロ。士郎は気づくのが遅れ、気づいたアルトリアが制止の声を掛けた時にはネロはらっぱ飲みで日本酒を口にしていた。

「待ちなさい! 貴女にそれは――」
「ぶふぁっ!?」
「……」

 口に含んだものを一気に吹き出して、士郎はそれを頭から浴びてしまって固まった。
 皇帝云々以前に女として見せてはならない醜態を晒したネロは、あわあわと慌てながら弁解した。

「あっ、こ、これはだな……クー・フーリンが吹き出すほどの酒がどんなものか興味があってだな……? 余、余は別に悪くないぞ? いやむしろこんなものを平気な顔で飲んでおるシェロが悪い!!」
「……うん。そうだね。俺が悪いね」

 顔を赤くしているネロは、酒を飲んだことがないうぶな少女のようだった。それになんとも言えない気分で相槌を打ち、士郎は布を投影して顔を拭いた。
 自慢の酒を吹かれてこんなもの呼ばわりされて立腹しかけていたが、しかしクー・フーリンがなんとか自分の分を飲み干したことで機嫌を直した。

「ぷはぁっ。……最初は驚いたが、この火みたく体の中で燃える感覚は悪くねぇな、マスター」
「!! 分かるかランサー!?」
「お、おう……」
「やっぱり違いが分かる男なんだなぁクー・フーリンは! クー・フーリン『は』!」
「むっ! まるで余だけが違いも分からぬ小娘のように言いおって! よかろう、それはローマに対する重大な挑戦と受け取った! これに見よ我が勇姿! こんなもの容易く飲み干してくれる!」
「ああっ、止しなさいネロ! 貴女が酔ったら色々詰みます! シロウも止めてください!」

 ふふん、とアルトリアに羽交い締めにされたネロに
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