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人理を守れ、エミヤさん!
英雄猛りて進撃を(下)
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た軍勢が、為す術もなく削られた。
 ただの一撃で、三百の不死不滅が概念ごと粉砕された。

「?????……!」

 驚愕などない。「驚く」といった感情など残っていない。それでも狂王は宿敵(・・)がやはり侮れぬと狂奔し、己の宝具、その真の姿を開陳した。

 容易くいくと思うな、『不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)』の真髄とはこれである!

 ダレイオス三世の誇る精鋭が集結し「死の戦象」となった。黒く、雄々しく、猛々しい戦象。鬼火を纏う漆黒の戦象兵となったダレイオス三世は、自ら戦斧を手に軍勢を率い、恐るべき魔力の一撃を繰り出すべく敵対者を破壊せんと怒濤の如くに迫る。
 ランサー、クー・フーリンは飄々と言う。そうだ、それでいい、出し惜しむようならそのまま鏖殺してしまおうと思っていたが、それでこそ遣り甲斐があるというものだ。

 ……しかし、なんだ。

「言いたかねぇが、こりゃメイヴの方が数段怖ぇな。見劣りするぜ、逃げ腰王」

 苦笑して、クー・フーリンは手に戻った朱槍で肩を叩きながら悪態をつく。逃げ腰王――征服王と幾度も戦い、不利になれば真っ先に逃げ出して軍の潰走を招いたダレイオス三世の弱腰。それを揶揄した皮肉だった。

 狂うのはいい、それは恐怖を退ける一つの手段だ。
 荒ぶるのもいい、戦う者は己の全力を尽くさねばならぬから。
 だが、目の前の敵を見ない(・・・)のは駄目だ。敵に失礼だし何より途端に恐さを欠いてしまう。
 迫力がないのだ。こちらの向こう側に誰かを見て、実際に戦う相手を見ていない。槍一本、盾一個、体一つで万の敵に呑み込まれながらも、クー・フーリンは丁寧に、豪快に、精妙に槍で突き殺し、盾で砕き、足で穿つ。そして改めて実感する。
 この狂王は、自分ではない誰か――宿敵と戦うように軍勢を指揮している。それでどうして万夫不当の英雄を倒せるだろうか。

「……」

 熱していたものが、失意に冷めていく感覚を得て、クー・フーリンは敵軍のただ中にも関わらず嘆息した。
 いい戦いといい獲物、加えていい主人がいるなら番犬は満足なのだが。
 人理修復のための戦い、なるほど結構。大義があるのはいいことだ。マスターの男は骨のある硬骨漢、共に戦うに値する戦士。クー・フーリンに不満はない。
 正直な話、ここまでいい環境に恵まれたのははじめてと言っていいだろう。生前はとんと縁のなかった話だし、英霊となってからも覚えている限りでは最低の職場ばかりだった。後はいい獲物さえいたら完璧なのだが……。

「お前さん、つまんねぇな」

 強敵と聞いていた。故にテンションを上げてきた。
 この目で見た。確かになかなか強そうだった。
 そして、だからこそ失望した。

 ――敵を見ねえ輩なんざ怖くもなんと
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