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人理を守れ、エミヤさん!
英雄猛りて進撃を(上)
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少年が教えてくれたのだという。
 ネロは一時期、アレキサンダーと交戦し、敗れ、捕虜となる寸前までいったそうだ。そこで彼は、なにを思ったのか突然ネロを試すようなやり口を改め、脇目も振らずにネロに今後必須とされるだろう知識を授けてきたのだという。
 そして半信半疑のネロに言ったのだ。

(どうやら僕はここまでのようだ。次、会う頃には、僕から理性は失われているだろう。いいように操られるのも業腹だからね、せめてもの意趣返しとして君に塩を送らせて貰う。――もし後がなくなり、逃れる場所がなくなったのなら……そうだね、ブリタニアだ。あそこまで逃げるといい。そこが、最も神祖の手が及ぶのに時がかかるだろうから。カルデアに目端の利く者がいたら、そこに現れるだろう)

 そう言ったきり、アレキサンダーはネロを放逐したのだという。
 後に事の真相を知り、神祖と対面する頃には、ネロは因縁浅からぬブーディカ、何やらネロを知るらしいエリザベート、タマモキャットと名乗るナマモノ、暗殺者の荊軻と狂戦士のスパルタクス、ランサーのレオニダス一世と合流し、一時はローマ連合軍とやらを押し返すほどの獅子奮迅の働きをしていた。

 だが――Mと名乗った男が全てを狂わせたのだ。

 Mは手にした聖杯を使い、自らの支配下にあるサーヴァント全てに狂化を付与。それすらはね除け自我を完璧に保った神祖ロムルスには一つの命令と共に聖杯を埋め込み暴走させたのだという。
 その命令とは――ネロは、「ローマを否定せよ」だと睨んでいる。如何に神祖が強大な存在であろうと、その身はサーヴァントのものでしかない。聖杯そのものを使って暴走を謀られれば抗える物ではなかった。
 神祖は、一度は矛を交えたネロに、全霊を賭した言葉を残した。

(我が子よ、お前が(・・・)――ローマだ(・・・・)!!)

 それは偉大な歴代皇帝達を前に迷い、煩悶としていたネロに強い一歩を踏み出させる、これ以上ないほどの激励だった。
 ネロは奮起し、なんとしても神祖を倒さんと必死に戦ったが……惜しくも敗れ、ブリタニアへと逃走せざるを得なかった。

 敗走するネロを守るため、最初にランサー、レオニダス一世が散った。殿軍として追手の前に立ちふさがり、一日あまりの時間を稼いだという。
 レオニダス一世ですら、一日しか保たなかった。しかし千金に値する一日だった。
 荊軻はいつのまにか姿を消していた。軍事行動では役に立たぬと弁え、敵陣に単身潜入し――恐らくはカリギュラを討ったと思われる。追ってきた敵の中に、カリギュラの姿が無くなっていたからだ。
 皇帝の代名詞たる歴史上屈指の名将、カエサルに追い付かれた時、ブーディカとスパルタクスが足止めに向かった。一時間と保たなかったが、ネロは多くの将兵を残して更に馬を走らせた。
 
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