英雄猛りて進撃を(上)
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ネロ帝は皇帝だが、意味合いは王と似ている。まったく呆れた眼力だよ、と士郎は苦く笑うしかない。隠すこと、騙すことは得意なはずなのに、これでは自信をなくしてしまいそうだった。
アルトリアを見る。……何かを言いかけ、止めた。
明日のことを語れば鬼が笑う。今は止そう。だが、そうだな……蟠りを抱えたままというのも気持ち悪い話だ。落ち着ける時が来たら、少し話をしよう。士郎はそう思った。
「――ネロ帝。いや、名で呼び捨てても?」
「許す。余はカルデアのマスターとやらになるのだ。であれば先達たるそなたが余におもねるようなことがあってはならん。それでは他に示しがつかぬからな」
「ではネロと。――ああ、いや、誉め言葉が溢れて何も言えない。だから、代わりに感謝する。まだ時ではないが、いずれ必ず貴女の助言に沿わせて貰う」
「うむ。幾らかは晴れたか。ならばよし! 余からは何も言うことはない! さあ、後はよきに計らうがよいぞ!」
堂々たる立ち姿で腕を組み、ネロは眼を閉じて時を待つ。
士郎は微笑ましげにしているアルトリア達に対し、背中が痒くなる感覚を覚えたが、誤魔化すようにカルデアのロマニにゴーサインを出した。
――斯くして、ここにカルデア二人目のマスターが生まれた。
起動した聖杯は、過つことなく願いを叶える。
ネロ・クラウディウスが現代の存在であり、カルデア職員であると世界に誤認させる。人理焼却に喘ぎ、防御が薄くなっているが故それはあっさり成功した。
なおかつ、同時にこの特異点に於いてはローマ皇帝であるという矛盾を押し付け成立させる。どれほど弱まっていようとも、抑止力は人の身で抗えるものではない。しかし聖杯を使えばなんの問題もなかった。一度機能させてしまえば、聖杯の力の一部しか使用せずとも、半月は問題なく矛盾を成り立たせることが出来るとカルデアは測定したのだ。
半月もあれば充分である。もともと十日も時間はないのだ。それまでに特異点を修正し、矛盾を正し、ネロをカルデアに正式に迎え入れればよい。
ネロが現代人として存在が確立すれば、もう聖杯に存在を維持させる必要もないということだ。時代が修復されれば、ネロは『いる』ものとして歴史は進む。
全てが終わっても、傍目にはネロの何が変わった訳でもない。正直、何も変わって見えなかった。
だが当事者であるネロには何かが感じられたのだろう。大切な物から自身が切り離されたかのような、寂しげな眼で空を見上げ……次の瞬間には何事もなかったかのように不敵な笑みを浮かべた。
ネロがどこで聖杯やカルデア、サーヴァントやマスターのことを知ったのか。訊ねると、サーヴァントとして敵側に現界していたという征服王……その若かりし姿の王子、アレキサンダーと名乗った
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